予感していましたわ2010-06-01

カテリーナがアリョーシャの来訪を喜ぶ

≪- Я потому так ждала вас, что от вас от одного могу теперь узнать всю правду, - ни от кого больше!
- Я пришёл... - пробормотал Алёша, путаясь, - я... он послал меня...
- А, он послал вас, ну так я и предчувствовала. Тепепь всё знаю, всё! воскликнула Екатерина Ивановна с засверкавшими вдруг глазами.≫

<試訳>「私はあなたをとても待っていましたのよ、真実を全部知ることができるのは、今は唯一人あなたからだけですから、他には誰もいないんですもの」
「僕、やって来たんです・・・」とアリョーシャは言い淀むようにつぶやいた。「僕は・・・兄が僕をよこしたんです・・・」
「そう、彼があなたをよこしたのね、そう、私そんな予感もしてたのよ。今、すべて分かったわ、すべてよ!」 エカテリーナ・イワーノブナは急に、眼を輝かせて叫んだ。

アリョーシャは解決の糸口への期待も秘めてカテリーナの家を訪れます。彼女が現れるとその優雅な物腰に、彼は以前受けた高慢で無遠慮な彼女の印象は誤解だったのではと思うのです。作者は広間の豪華な調度品を詳しく描写し、テーブル上の飲みかけのカップや菓子皿などで他の来客とかちあっていて、何か事が起りそうなことを暗示しています。場面の突然の切り替えではなく、このようにストーリィをつないでいく手法が、読み手を流れに乗せて運び続けるのではないでしょうか。

お知らせいただく必要はないの2010-06-02

カテリーナがアリョーシャを待っていた理由を語る

≪- Постойте, Алексей Фёдорович, я вам заранее скажу, зачем я вас так ожидала. Видите, я может быть гораздо более знаю, чем даже вы сами; мне не известий от вас нужно.≫

<試訳>「お待ちになって、アレクセイ・フョードロビッチ、私がなぜあなたをこれほどお待ちしていたかを、あらかじめお話ししますわ。よろしいですか、私はあなたご自身がご存じのことよりはるかに多くを知っているかも知れませんのよ。ですから、あなたからの情報は必要はありませんの」

アリョーシャを待ち望んでいた彼女が昂ぶって話しだす様子が描かれます。彼女の言葉は丁寧ですが、少し気位の高さを感じさせる語調です。気おくれして身を固くしているアリョーシャの心境が察せられます。

ご自身の個人的な印象を2010-06-03

カテリーナが知りたいことを説明する

≪...Мне вот что от вас нужно: мне надо знать ваше собственное личное последнее впечатление о нём, мне нужно, чтобы вы мне пассказали в самом прямом неприкрашенном, в гпубом даже (о, во сколько хочите грубом! ) виде- как вы сами смотрите на него сейчас и на его положение после вашей с ним встречи сегодня? ≫

<試訳>「私があなたからお聞きしたいのは、こんなことですわ。あの人についてのあなたご自身の最新の個人的な印象を是非伺わせていただきたいの。あなたができる限り率直に飾らずにお話して下さる事が必要ですの。無作法だってかまいませんわ(ええ、どうぞお好きなだけ無作法に!)。今日あの人とお会いになった後で、あなたご自身が今、あの人とあの人の状況をどのようにご覧になっていらっしゃいますか」

カテリーナはドミートリィの考えや様子を聞くのではなく、アリョーシャ自身が兄をどのように見ているかを尋ねます。彼女はドミートリィの気質や行状について十分知っていると思われます。彼との婚約に至るいきさつもあり、彼女の本当の気持や今後の二人の関係など物語の展開に興味が増します。
訳文では句点で区切りましたが、原文は全部で一文です。彼女がたたみかけるように、昂ぶって話している様子が表されます。他の場面でも作者の感情移入が感じられるような、登場人物の長い台詞の部分が多く見られます。

アーラ・プガチョーワ2010-06-04

アーラ・プガチョーワはロシアポップス界で”泣く子も黙る”と言われるほどの存在だそうです。日本では加藤登紀子の歌「百万本のバラ」のオリジナルを歌って知られています。数日前にこの曲の作詞者のアンドレイ・ボズネセンスキーが77歳で亡くなったと報道されていました。実在した貧しい画家の悲話をモチーフにした、哀愁の漂う曲です。このようなバラード風から激しいロック調のものまで歌いこなす彼女の歌唱力はさすがです。

忘れないように三度も2010-06-05

アリョーシャがドミートリィの伝言を伝える

≪- говорите просто, самое последнее слово говорите!...
- Он приказал вам... кланяться, и что больше не придёт никогда... а вам кланяться.
- кланяться? Он так и сказал, так и выразился?
- Да. ≫

<試訳>「簡単に、肝心なことだけお話し下さればいいの、お話になって!・・・」
「兄さんはあなたに・・・よろしくと、そしてもう決して伺わない・・・でもあなたにはよろしく言うようにといいつけたんです」
「よろしく、ですね。あの人はそのようにおっしゃったのね、そんな言い方でしたのね」
「そうです」

カテリーナがドミートリィの伝言をどのように語ったかをアリョーシャに尋ねています。丁寧なのですが審問しているようで、アリョーシャは口ごもりながら答えています。この後さらに、「よろしく」をどのような調子で言ったか、「忘れないように三度も」というようなやりとりが続きます。彼女も婚約者の真意を推し量ろうと一心ですから無理もありません。電話もなく会って率直に話すことも難しい時代の悲しさです。

あの人にとって最も信じられる友2010-06-06

ドミートリィについて語り続けるカテリーナ

≪Я поставила во всем этом одну только цель: чтоб он знал к кому воротиться и кто его самый верный друг. Нет, он не хочет верить, что я ему самый верный друг, не захотел узнать меня, он смотрит на меня только как на женщину. ≫

<試訳>「私、いろいろあった中で一つだけ狙いを定めましたの。それは、あの人が誰の所に帰ってくるべきか、そしてあの人にとって誰が最も信じられる友かということを、あの人に気付いていただくってことなの。でも、あの人は私が最も信ずべき友だってことを信じたがらないですし、私の事を知ろうともせずに私をただ女としてしか見ていませんわ」

彼女の話し方から、ドミートリィへの強い愛情というのはあまり感じられません。どちらかというと理詰めで筋を通そうとしているようにさえ思われます。ドミートリィの直情直行の気質とは相いれないものがありそうです。それを知っていながら、なりゆきで婚約まで至り、それを裏切ろうとしている彼の責任はやはり大きいです。

あの人をお救いしたいんです2010-06-07

気持ちに応えないドミートリィへの不満を述べるカテリーナ

≪- Я хочу его спасти навеки. Пусть он забудет меня, как свою невесту! И вот он боится перед мной за честь свою! Ведь вам же, Алексей Фёдрович, он не побоялся открыться? Отчего я до сих пор не заслужила того же?  Поседние слова она произнесла в слёзах; слёзы брызнули из её глаз.≫

<試訳>「あの人を生涯をかけてお救いしたいんです。婚約者としての私など、あの人が忘れたっていいんです! それなのに、あの人が私に対して自分の名誉を気にするなんて! だって、アレクセイ・フョードロビッチ、あの人、あなたに打ち明けるのは気にもしなかったんでしょう。一体どうして今の今まで私がそれに値しないのでしょう」
最後の言葉を彼女は涙声で話した。彼女の眼から涙がこぼれ落ちた。

彼女は自分がどれほど献身的にドミートリィのことを考えているかを語り、それを理解してもらえない自分を憐れんでいるようです。作者は僧院のゾシマ長老が信仰薄い婦人に対して諭す場面で、偽善への戒めを語らせています。「空想的な愛に比べて実践的な愛は残酷で怖いものである・・・」(実践的な愛(3)2009.1.6) カテリーナの空回りする愛に通じるものを感じます。彼女自身にも自分の本当の気持ちが分かっていないのかも知れません。

あの人は彼女と結婚はしませんわ2010-06-08

カテリーナがアリョーシャの懸念を打ち消す

≪- Он пошёл к этой женщине... - тихо прибавил Алёша.
- А вы думаете, что я эту жекнщину не перенесу? Он думает, что я не перенесу? Но он на ней не женится, - нервно рассмеялась она вдруг, - разве Карамазов может гореть такою страстью вечно? Это страсть, а не любовь.≫

<試訳>「兄さんはあの女性のもとに行ったんです」 アリョーシャが小声で言い足した。
「じゃあ、あなたは私があの女性に我慢ならないとお思いなの。あの人も、そう思ってらっしゃるの。でも、あの人は彼女と結婚しませんわ」 彼女は急に神経質そうに笑い出した。
「カラマーゾフの方がそのような激情をいつまでも燃やし続けることなどできるでしょうか。これは激情であって、愛ではありませんわ」

アリョーシャは父の家での一部始終を伝えました。ですからドミートリィがグルーシェンカを狂ったように探し回ったことを、カテリーナは知ったわけです。それにしては妙に落ち着いている彼女の様子が描写されています。どうしてだろうと思わせるところが巧みです。

あのお嬢さんは天使ですわ2010-06-09

自信に満ちてカテリーナは断言する

≪- Он не женится, потому что она и не выйдёт за него... - опять странно усмехнулась вдруг Катерина Ивановна.
- Он может быть женится, - грустно проговорил Алёша, потупив глаза.
- Он не женится, говорю вам! Эта девушка - это ангел, знаете вы это? знаетевы это! - воскликнула вдруг с необыкновенным жаром Катерина Ивановна. ≫

<試訳>「あの人は結婚しませんわ、なぜって、彼女があの人のところへお嫁になんか行きませんもの・・・」 カテリーナ・イワーノブナはまた急に妙な笑いを浮かべた。
「兄は結婚するかも知れないのです」 眼を伏せて悲しげにアリョーシャが言った。
「あの人は結婚しないって申してるじゃありませんか! あのお嬢さんは天使ですわ、あなたはこのこと知ってらして。ご存じなの!」 突然、カテリーナ・イワーノブナは不思議なほど熱をこめて叫んだ。

アリョーシャの推測を問題にもせず、彼女は自分の確信を述べます。そうであって欲しいという願いや自尊心もあるでしょうが、恋敵のグルーシェンカを天使とまで言うのは奇妙です。その理由が後で明かされます。

お姿をお見せして!2010-06-10

グルーシェンカを呼ぶカテリーナ

≪Чего вы смотрите так на меня, Алексей Фёдрович? Может быть удивляетесь моим словам, может быть не верите мне? Аграфена Александровна, ангел мой! - крикнула она вдруг кому-то, смотря в другую комнату, - подите к нам, это милый человек, это Алёща, он про наши дела всё знает, покажитесь ему! ≫

<試訳>「なぜそのように私を見つめるんですの、アレクセイ・フョードロビッチ。私の言ったことに驚かれたのかしら、信じて下さらないかも知れませんわね。 アグラフェーナ・アレクサンドロブナ、私の天使さん!」 突然、彼女は隣の部屋に眼をやりながら誰かに大声で呼びかけた。「こちらへおいでになって、かわいい人がいらっしゃってますよ、アリョーシャさんよ、この人は私たちの事はみんなご存じなんですから、お姿をお見せしてあげて!」

カテリーナが、彼より先に訪れていたグルーシェンカを呼び出すところです。意外にも恋敵の二人の女性が会っていたのです。アリョーシャが来訪した時、テーブルの飲みかけのカップや絹のケープなどを見て来客とかちあったことには気付いていたのですが、それがグルーシェンカだとは思いもよりません。もちろん読者の私たちもです。劇的な効果があり、また、アリョーシャの驚きも察せられます。