そうしなけりゃならんですかな2010-11-11

 ≪- Да я ведь вовсе не жолуюсь, я только рассказал... - Я вовсе не хочу, чтобы вы его высекли. Да он кажеться теперь и болен...
- А вы думали я высеку-с? Что я Илюшечку возьму да сейчас и высеку пред вами для вашего полного удовлетворения? Скоро вам это надо-с? - проговорил штабс-капитан, вдруг повернувшись к Алёше с таким жестом, как будто хотел на него броситься.≫

<試訳> 「いえ、僕は苦情を言うつもりはまるでないんですから・・・僕はただお話をしただけで・・・。折檻して欲しいなんて全然思ってやしません。それに息子さんは今病気じゃないですか・・・」
「と言うと、あなたは私が折檻すると思ったんですかな。あなたがたっぷり満足する様に、イリューシャをとっつかまえて眼の前で今すぐにでも折檻するとでも。すぐにでもそうしなけりゃならんですかな」飛びかかろうとするかのような身振りで突然アリョーシャに向き直って二等大尉は言った。

・ 前言で「すぐに折檻を」と自分で言っておきながらアリョーシャを困らせるような言い方で詰め寄ります。狡猾な一面を見せる父親の姿が浮かびますが、父親としての心情と貧しさゆえのしたたかさとが感じられ哀切です。

5本目は要求せんでしょうな2010-11-12

≪- Жалею, сударь, о вашем пальчике, но нехотине ли - я, прежде чем Илюшечку сечь, свои четыре пальца, сейчас же на ваших глазах, для вашего справедливого удовлетворения, вот этим самым ножом оттяпаю. Четрёх-то пальцев, я думаю, вам будет довольно-с для утоления жажды мщения-с, пяного не потребуете?.. - Он вдруг остановился и как бы задохся. Каждая чёрточка на его лице ходила и дёргалась, глядел же с чрезвыцайным вызовом. Он был как бы в исступлёнии.≫

<試訳> 「あなた様の指についてはお気の毒と思っておりますが、どんなものでしょう、イリューシャを折檻する前に、この私が自分の4本の指を、只今すぐにあなた様の目の前で、あなた様の正当なる復讐のために、ほれこのナイフで切り落とすという事では。4本の指であなた様の復讐への渇きを癒すに十分と私は思っとりますが、5本目は要求せんでしょうな・・・」話を途切らせた彼は息苦しそうだった。顔のあちこちがひくひく引き攣り、異常なほど挑戦的に見えた。彼は極度に興奮しているようだった。

・ 言葉は慇懃なのですが語る内容は凄まじい居直りです。アリョーシャが望んでもいない復讐を自らの身にと迫るのです。子供をかばう父親の極端な駆け引きでもあります。このような気質であれば彼自身がどんなにドミートリィへの復讐心を抱えていることかと思わせられます。
強烈な個性をもった人間が滔々とまくしたて感情を顕にしてぶつけることは私達の周囲の日常では稀なので、このような激しさには圧倒されます。

ドストエフスキーの言葉2010-11-13

古書店で目に留まってしまいました。小説、評論、書簡、日記などから抜粋された小文に作者の考えがちりばめられています。気が向いたページを開くと作者が語りかけてきます。

今開いたページから
ロシアの民衆の最も根本的要求は―場所と対象を選ばぬ、飽くことを知らない不断の、苦悩の要求にほかならない。この苦悩の渇望にロシア人は、どうやら、何百年もの昔からかぶれているように思われる。(作家の日記)

わが国には、もしかすると、悪い人間などというものはぜんぜんいなくて、いるのはただろくでなしだけなのかもしれない。われわれはまだ悪い人間になるまでは成長していないのである。(作家の日記)

今分かりました2010-11-14

 ≪- Я, кажеться тепель всё понял. - тихо и грустно ответил Алёша, продолжая сидеть. - Значит ваш мальчик - добрый мальчик, любит отца и бросился на меня как на брата вашего обидчика... Это я теперь понимаю, - повторил он раздумывая.≫

<試訳> 「全てが今分かった様な気がします」座り続けたまま静かに悲しげにアリョーシャが答えた。「あなたのお子さん、お父さんを愛していてる心優しいお子さんは、あなたに無礼を働いた者の弟である僕に飛びかかったということなんです・・・。僕は今は、よく分かります」考え込みながら彼は繰り返した。

・ 少年が父の無念を晴らそうと指に咬みついた事情を知ってアリョーシャは悲しげです。自分の痛みよりも兄の行為を恥じいる思いがはるかに辛いはずです。本来ならばドミートリィがこの場で自ら謝罪すべきところでしょう。カラマーゾフの重い枷がアリョーシャを苦しめます。

皆の前で赦しを乞うでしょう2010-11-15

 ≪ - Но брат мой Дмитрий Фёдорович раскаивается в своём поступке, я знаю это, и если только ему возможно будет прийти к вам, или всего лучше свидеться с вами опять в том самом месте, то он попросит вас при всех прощения... если вы пожелаете.≫

<試訳> 「でも、兄のドミートリィ・フョードロビッチは自分のした事を後悔しています。僕には分かるんです。もし兄があなたの所へ伺ってよろしければそのように、それより事のあったあの場所でもう一度あなたにお会いするのが一番いいですね、そしたら兄は皆の前であなたに赦しを乞うでしょう・・・あなたがお望みならですが・・・」

・ 侮辱的な行為をしたドミートリィなのですが、“兄は後悔している”と言い切るアリョーシャです。良心の存在を心から信じているようです。

大切なお話があります2010-11-16

 ≪- Воздух чистый-с, а в хоромах-то у меня и впрямь не свежо, во всех даже смыслаях. Пойдёмте, сударь, шагом. Очень бы хотелось мне вас заинтересовать-с.
- Я и сам к вам одно чрезвычайное дело... - заметил Алёша, - и только знаю, как мне начать.
- Как не узнать, что у вас до меня дело-с? Без дела-то вы бы никогда ко мне и не заглянули. Али в самом деле только жаловаться на мальчика приходили-с? ≫

<試訳> 「空気が清々しいですな、私どもの屋敷ときたら全くあらゆる意味で爽やかではありませんからな。まあゆっくり歩くとしましょう。あなた様にとってたいそう関心ある事がありましてな」
「僕にも重要な一件があるんですが…」アリョーシャが言った「ただ、どう切り出してよいものか分からないんです・・・」
「私に用があるって事ぐらい気付いておりますよ。用も無いのに私の所へなど決して立ち寄りゃせんですからな。それとも、本当に子供の事で苦情を仰りに来られただけですかな」

・ 物置のような粗末な小屋の中では、主人が家族を紹介する段になって妻(精神を病んでいる)や娘とのやりとりで混乱します。主人は逃げるようにアリョーシャを連れて家を出るのです。屋外に出た瞬間の気分が対比されて良く伝わってきます。
二人とも本題に入るのはこれからなのですが、相手の気持ちを量りながらの慎重な言い回しになっています。
二等大尉は最初から語尾に“ -с”(召使いなどが敬って用いる)をつける言い方を多用しています。自分でも“人生半ばを過ぎてから、やたらとつけて話すようになった。落ちぶれると言葉づかいまで卑屈になる”と語っています。

父さんを許してあげて2010-11-17

 ≪Ну-с, вот-с, тянет меня тогда ваш братец Дмитрий Фёдрович за мою бороденьку, вытянул из трактира на площадь, а как раз школьники из школы выходят, а с ними и Илюша. Как увидал он меня в током виде-с, - бросился ко мне: "папа, кричит, папа!" Хватается за меня, обнимает меня, хочет меня вырвать, кричит моему обидчику: "Пустите, пустите, это папа мой, папа, простите его", - так ведь и кричит: "простите"; ручениками-то тоже его схватил, да руку-то ему, эту самую-то руку его, и целует-с... Помню я в ту минуту, какое у него было личко-с, не забыл-с и не забуду-с!..≫

<試訳> 「さて、その日ですが、兄上のドミートリィ殿が私の髭を引っ張って居酒屋から広場へ引きずり出すんですな、またちょうどそこに生徒達が下校して来るんでして、イリューシャも一緒なわけです。ぶざまな姿の私を見たとたんに私の所へすっ飛んできまして、“父さん、父さん!”と叫けびやがるんですよ。私をつかみ、抱きつき、私を奪い取りたい一心でして、私を侮辱する相手に叫ぶんです“放して下さい、放して下さい、僕の父さんなんです、父さんです、父さんを許しあげて”- そう叫ぶじゃありませんか、“許してあげて”とですよ。両手で兄上の手にすがりついて、そう彼の手を、他ならぬ兄上の手を取って口づけさえするんです…。覚えとります、あの子がその瞬間どんな顔つきをしておったか、忘れちゃいません、忘れられませんとも!」

・ ドミートリィから侮辱を受けた時の様子を大尉がアリョーシャに語り続けます。その場の状況が立体的にありありと描写されています。息子のイリューシャが父親を必死に助けようとする姿が胸を打ちます。人々の前で息子に哀れな姿を見せ、また悲痛な想いをさせてしまった父親の、はかり知れない切ない気持ちも伝わってきます。貧しい父子の強い絆が衝撃的で、まさしく忘れられない一場面です。

もう兄ではありません2010-11-18

 ≪- Клянусь, - воскликнул Алёша, - брат вам самым искренним образом, самым полным, выразит раскаяние, хотя бы даже на коленях на той самой площадь... Я заставлю его, иначе он мне не брат!≫

<試訳> 「僕は誓います」アリョーシャが叫んだ「兄はたとえ事を起こしたあの広場で跪いてでも、あなたに後悔の気持を心底から誠実に表します・・・。僕がそうさせます。そうしないなら、もう兄ではありません!」

・ 兄ドミートリィの行為がどれほど父と子を傷つけたかを知り、アリョーシャは彼が後悔していないはずはないと訴えます。そう願う気持の方が強いというのが本当かも知れません。兄に対して“そうさせる。そうしないなら・・・”と強く言い切るアリョーシャのいたたまれなさと、心を傷つける事への激しい憤りを感じます。

夢のような計画なんですな2010-11-19

 ≪- Ага, так это ещё в прожекте находится. Не прямо от него, а от благородства лишь вашего сердца исходит пылкого-с. Так бы и сказали-с. Нет, уж в таком случае позвольте мне и о высочайшем рыцарском и офицерском благородстве вашего братца досказать, ибо он его тогда выразил-с.≫

<試訳> 「ははぁ、そうしますとこれはまだ夢のような計画なんですな。直接あの方からではなしに、単にあなた様の燃えやすい御心の気高さから発したものでありますな。そうおっしゃって下さればよろしいものを。いや、そういうことでありますならば、あなた様の兄上の極めて騎士道精神溢れる士官の高潔さにつきまして、とことん話させていただくとしましょう。なにしろあの方はその時それを発揮されたんですからな」

・ ドミートリィが謝罪するという事はアリョーシャの希望に過ぎないのだと見透かされます。謝るような彼ではないという確信もあったのでしょう。それならばと、慇懃に皮肉をこめて彼を形容し許されざる行為を語り出すのです。

決闘の相手になってやるぞ2010-11-20

 ≪"Ты, говорит, офицер и я офицер, - если можесь найти секунданта, порядочного целовека, то присылай - дам удовлетворение, хотя бы ты и мерзавец!" Вот что сказал-с. Воистину рыцарский дух! ≫

<試訳> 「“貴様は将校だし、俺も将校だ”と言いましてね“もし身分のある介添人を探し出せたら遣わしてよこすんだな、貴様など汚らわしい奴だが決闘の相手にはなってやるぜ”と、こう言われたんでございますよ。まことに騎士道精神そのものじゃありませんか!」

・ ドミートリィが大尉を解放する時の捨て台詞です。自分で侮辱的な振る舞いをした上に蔑むような言葉を投げつけます。事の発端が何かは分かりませんが、彼の言動に騎士道精神は見出せません。義を重んじ情に厚いところがあると思っていたドミートリィのイメージが残念ながらここでは崩れました。