我儘な上流の貴婦人 ― 2013-07-01
≪"Эти избалованные высшие дамы, если уж захочят чего до капризу, то уж ничего не щадят, чтобы вышло по-ихнему. Она же к тому так богата", рассуждал Митя.≫
＜試訳＞ “ あのような我儘な上流の貴婦人というのは、気まぐれで何かを望みだすと、思い通りにするためなら何だって惜しまないものだ。それにあの人はたいした金持ちときているからな ”、とミーチャは判断した。
＜試訳＞ “ あのような我儘な上流の貴婦人というのは、気まぐれで何かを望みだすと、思い通りにするためなら何だって惜しまないものだ。それにあの人はたいした金持ちときているからな ”、とミーチャは判断した。
体裁のいい抵当 ― 2013-07-02
≪Что же касается собственно до "плана", то было всё то же самое, что и прежде, то-есть предложение прав своих на Чермашню, - но уже не с коммерческою целью, как вчера Самсонову, не прельщая эту даму, как вчера Самсонова, возможностью стяпать вместо трёх тысяч куш вдвое, тысяч в шесть или семь, а просто как благородную гарантию за долг.≫
＜試訳＞ ところで “ 計画 ” はどうかと言うと実は前と全く同じ、つまりチェルマーシニャ村に対する所有権の提供なのだ。しかし、昨日サムソーノフを相手にしたような商売目的ではない。３千ルーブルと引き換えに倍の６千か７千ルーブルを手にする事ができる、とサムソーノフを誘った昨日のような真似はこの婦人にはせずに、単に借金へのしかるべき抵当としてだった。
・ ドミートリィはホフラコワ夫人との借金の交渉に１時間を割く予定です。既に身支度などで時が過ぎているのに、作者が説明に時間を費やすのも心配になります。
＜試訳＞ ところで “ 計画 ” はどうかと言うと実は前と全く同じ、つまりチェルマーシニャ村に対する所有権の提供なのだ。しかし、昨日サムソーノフを相手にしたような商売目的ではない。３千ルーブルと引き換えに倍の６千か７千ルーブルを手にする事ができる、とサムソーノフを誘った昨日のような真似はこの婦人にはせずに、単に借金へのしかるべき抵当としてだった。
・ ドミートリィはホフラコワ夫人との借金の交渉に１時間を割く予定です。既に身支度などで時が過ぎているのに、作者が説明に時間を費やすのも心配になります。
有頂天になった ― 2013-07-03
≪Развивая эту новую свою мысль, Митя доходил до восторога, но так с ним и всегда случалось при всех его начинаниях, при всех его внезапных решениях. Всякой новой мысли своей он отдавался до страсти.
＜試訳＞ この新たな自分の考えを繰り広げるうちにミーチャは有頂天になったのだが、そうなるのは彼が何事でもやり始める際や急に決断した場合にいつも起こる事だった。何であれ自分の新しい思いつきに彼は夢中になって情熱を傾けるのが常だった。
＜試訳＞ この新たな自分の考えを繰り広げるうちにミーチャは有頂天になったのだが、そうなるのは彼が何事でもやり始める際や急に決断した場合にいつも起こる事だった。何であれ自分の新しい思いつきに彼は夢中になって情熱を傾けるのが常だった。
背筋が寒くなる ― 2013-07-04
≪Тем не менее, когда ступил на крыльцо дома госпожи Хохлакавой, вдруг почувствовал на спине своей озноб ужаса: в эту только секунду он сознал вполне и уже математически ясно, что тут ведь последняя уже надежда его, что дальше уже ничего не остаётся в мире, если тут оборвется, "разве зарезать и ограбить кого-нибудь из-за трёх тысяч, а более ничего... " Было часов семь с половиною, когда он позвонил в колокольчик.≫
＜試訳＞ それなのに、ホフラコワ夫人の家の表階段に足をかけた時、ミーチャは不意に恐ろしさで背筋が寒くなるのを覚えた。これがもう自分の最後の望みで、この先は世界にもう何一つ残っていない、もしここで望みが断たれたなら “ ３千ルーブリのために誰かを殺傷して強奪する他はない･･･ ” という事を彼はこの瞬間にやっと初めて完全に、しかも数学的なほど明確に悟ったのだった。彼が呼び鈴を鳴らしたのは７時半頃だった。
・ 意気揚々のドミートリィが直前になって不首尾の時を思いぞっとする心理がリアルです。どの人物も時により状況により複雑な面を描くところに作者の人間理解の深さを感じます。
＜試訳＞ それなのに、ホフラコワ夫人の家の表階段に足をかけた時、ミーチャは不意に恐ろしさで背筋が寒くなるのを覚えた。これがもう自分の最後の望みで、この先は世界にもう何一つ残っていない、もしここで望みが断たれたなら “ ３千ルーブリのために誰かを殺傷して強奪する他はない･･･ ” という事を彼はこの瞬間にやっと初めて完全に、しかも数学的なほど明確に悟ったのだった。彼が呼び鈴を鳴らしたのは７時半頃だった。
・ 意気揚々のドミートリィが直前になって不首尾の時を思いぞっとする心理がリアルです。どの人物も時により状況により複雑な面を描くところに作者の人間理解の深さを感じます。
お待ちしていました ― 2013-07-05
≪Сначала дело как бы улыбнулось: только что он доложился, его тотчас же приняли с необыкновенною быстротой. "Точно ведь ждала меня", мелькнуло в уме Мити, а затем вдруг, только что ввели его в гостиную, почти вбежала хозяйка и прямо объявила ему, что ждала его...
- Ждала, ждала! ведь я не могла даже и думать, что вы ко мне придёте, согласитесь сами, и однако я вас ждала, подивитесь моему инстинкту, Дмитрий Фёдорович, я всё утро была уверена, что вы сегодня придёте.≫
＜試訳＞ 始めのうち、状況は微笑みかけるかのようだった。ミーチャが取り次ぎを頼むと即座に異例な早さで迎え入れられたのだ。 “ まるで僕を待っていたかのようだな ” という思いが彼の頭をよぎった。さらに客間に通されるとすかさず女主人が駆け込まんばかりに入って来て、待ちかねていた事を素直に告げた･･･。
「お待ちしてました、お待ちしてましたのよ！ あなたが私の家に来て下さるなんて思いもよらない事ですけれど、そうですわよね、それでもお待ちしていたんですの。私の直感に驚かれたでしょう、ドミートリィさん、あなたが今日いらっしゃるのを朝からずっと確信してたんですもの」
・ 意外にも夫人はドミートリィを待ちかねていたのです。昂った彼女の饒舌が始まります。
- Ждала, ждала! ведь я не могла даже и думать, что вы ко мне придёте, согласитесь сами, и однако я вас ждала, подивитесь моему инстинкту, Дмитрий Фёдорович, я всё утро была уверена, что вы сегодня придёте.≫
＜試訳＞ 始めのうち、状況は微笑みかけるかのようだった。ミーチャが取り次ぎを頼むと即座に異例な早さで迎え入れられたのだ。 “ まるで僕を待っていたかのようだな ” という思いが彼の頭をよぎった。さらに客間に通されるとすかさず女主人が駆け込まんばかりに入って来て、待ちかねていた事を素直に告げた･･･。
「お待ちしてました、お待ちしてましたのよ！ あなたが私の家に来て下さるなんて思いもよらない事ですけれど、そうですわよね、それでもお待ちしていたんですの。私の直感に驚かれたでしょう、ドミートリィさん、あなたが今日いらっしゃるのを朝からずっと確信してたんですもの」
・ 意外にも夫人はドミートリィを待ちかねていたのです。昂った彼女の饒舌が始まります。
急ぐんです ― 2013-07-06
≪- Это действительно, сударыня, удивительно, - произнёс Митя, мешковато усаживясь, - но... я пришёл по чрезвычайно важному делу... наиважнейшему из важнейших, для меня то есть, сударыня, для меня одного, и спешу...≫
＜試訳＞ 「それは確かに驚きです、奥さん」、ミーチャがのろのろと腰をおろしながら言った。 「ですが･･･、僕は非常に重要な件で伺ったのです･･･ 僕にとって、つまり僕一人だけにとってですが、これ以上ない極めて重大な用件なんです、奥さん、しかも急ぐんです･･･」
・ 夫人の勢いに押されながら、ドミートリィは用件を切り出そうとあせります。腰を浮かせて懇願しながら席に着く様子に心情が表れています。
＜試訳＞ 「それは確かに驚きです、奥さん」、ミーチャがのろのろと腰をおろしながら言った。 「ですが･･･、僕は非常に重要な件で伺ったのです･･･ 僕にとって、つまり僕一人だけにとってですが、これ以上ない極めて重大な用件なんです、奥さん、しかも急ぐんです･･･」
・ 夫人の勢いに押されながら、ドミートリィは用件を切り出そうとあせります。腰を浮かせて懇願しながら席に着く様子に心情が表れています。
あれほどの事があった後で ― 2013-07-07
≪- Знаю, что по наиважнейшему делу, Дмитрий Фёдорович, тут не предчувствия какие-нибудь, не ретроградные поползновения на чудеса (слышали про старца Зосиму?), тут, тут математика: вы не могли не придти, после того как произошло всё это с Катериной Ивановной, вы не могли, не могли, это математика.≫
＜試訳＞ 「とても大事なご用件で見えられたのは存じておりますわ、ドミートリィさん、それは予感なんかじゃありませんし、奇跡を示そうとする古めかしい目論見でもありませんのよ（ゾシマ長老の事はご存じですわね？）、これはね、これは数学的に確かな事です。カテリーナさんにあれほどの事があった後ですから、あなたはいらっしゃらないわけにはいかなかったのです、どうあってもあなたはそうしないわけにはね、これは数学のように明瞭ですもの」
・ そのまま訳すと夫人は二度、 “ これは数学です ” と言っています。“ 疑問の余地なく明確 ” の意味に捉え意を汲んで訳しました。
話し続ける夫人はドミートリィが用件を告げる間を与えません。
＜試訳＞ 「とても大事なご用件で見えられたのは存じておりますわ、ドミートリィさん、それは予感なんかじゃありませんし、奇跡を示そうとする古めかしい目論見でもありませんのよ（ゾシマ長老の事はご存じですわね？）、これはね、これは数学的に確かな事です。カテリーナさんにあれほどの事があった後ですから、あなたはいらっしゃらないわけにはいかなかったのです、どうあってもあなたはそうしないわけにはね、これは数学のように明瞭ですもの」
・ そのまま訳すと夫人は二度、 “ これは数学です ” と言っています。“ 疑問の余地なく明確 ” の意味に捉え意を汲んで訳しました。
話し続ける夫人はドミートリィが用件を告げる間を与えません。
実生活のリアリズム ― 2013-07-08
≪- Реализм действительной жизни, сударыня, вот что это такое! Но позвольте однако ж изложить...
- Именно реализм, Дмитрий Фёдрович. Я теперь вся за реализм, я слишком проучено насчёт чудес. Вы слышали, что помер старец Зосима?
- Нет, сударыня, в первый раз слышу, - удивился немного Митя. В уме его мелькнул образ Алёши.
- Сегодня в ночь, и представьте себе...≫
＜試訳＞ 「実生活のリアリズムです、奥さん、まさにそれなんです！ ですが、どうか話させて下さい･･･」
「リアリズムそのものですわ、ドミートリィさん。今は私、リアリズムに全面的に賛同していますの、奇跡の事で嫌というほど思い知らされましたもの。ゾシマ長老が亡くなられたのはお聞きになったでしょう？」
「いえ、奥さん、初耳です」 ミーチャは少しばかり驚いた。アリョーシャの姿がふと浮かんだ。
「今朝、明けないうちですわ、それがね･･･」
・ 二人は “ リアリズム ” で共感しますが、意味するところは違っているように感じます。夫人は長老の死に際しての奇跡を巡る騒ぎと対比しています。会話はすれ違ったまま夫人のペースで進み、ドミートリィはなかなか本題を持ち出せません。
- Именно реализм, Дмитрий Фёдрович. Я теперь вся за реализм, я слишком проучено насчёт чудес. Вы слышали, что помер старец Зосима?
- Нет, сударыня, в первый раз слышу, - удивился немного Митя. В уме его мелькнул образ Алёши.
- Сегодня в ночь, и представьте себе...≫
＜試訳＞ 「実生活のリアリズムです、奥さん、まさにそれなんです！ ですが、どうか話させて下さい･･･」
「リアリズムそのものですわ、ドミートリィさん。今は私、リアリズムに全面的に賛同していますの、奇跡の事で嫌というほど思い知らされましたもの。ゾシマ長老が亡くなられたのはお聞きになったでしょう？」
「いえ、奥さん、初耳です」 ミーチャは少しばかり驚いた。アリョーシャの姿がふと浮かんだ。
「今朝、明けないうちですわ、それがね･･･」
・ 二人は “ リアリズム ” で共感しますが、意味するところは違っているように感じます。夫人は長老の死に際しての奇跡を巡る騒ぎと対比しています。会話はすれ違ったまま夫人のペースで進み、ドミートリィはなかなか本題を持ち出せません。
経験豊かな魂の医者 ― 2013-07-09
≪- Сударыня, - прервал Митя, - я представляю себе только то, что я в отчаяннейшем положении и что если вы мне не поможете, то всё провалится, и я провалюсь первый. Простите за тривиальность выражения, но я в жару, я в горячке...
- Знаю, знаю, что вы в горячке, всё знаю, вы и не можете быть в другом состоянии духа, и что бы вы ни сказали, я всё знаю наперёд. Я давно взяла вашу судьбу в соображение, Дмитрий Фёдорович, я слежу за нею и изучаю её... О, поверьте, что я опытный душевный доктор, Дмитрий Фёдорович.≫
＜試訳＞ 「奥さん」 ミーチャがさえぎった。「僕が思い浮かべるのは、自分が絶望の淵にあって、もしあなたに助けていただかなければ何もかもが崩れ去り、しかもまっ先に僕が破滅するのだという、ただその事だけなんです。月並な言い方で申し訳ありません、熱に浮かされているんです、熱病にかかっているんです･･･」
「分っております、熱病にかかられているのは分っておりますわ、何もかも承知していましてよ、今の心情をお変えになるのはご無理というものですしね。あなたが何をおっしゃっても、私はとうに存じてますの。ずいぶん前からあなたの運命を気にかけてましてね、ドミートリィさん、その行方を追って研究してるんですもの･･･。何と言っても、私って経験豊かな魂の医者なんですのよ、ドミートリィさん」
- Знаю, знаю, что вы в горячке, всё знаю, вы и не можете быть в другом состоянии духа, и что бы вы ни сказали, я всё знаю наперёд. Я давно взяла вашу судьбу в соображение, Дмитрий Фёдорович, я слежу за нею и изучаю её... О, поверьте, что я опытный душевный доктор, Дмитрий Фёдорович.≫
＜試訳＞ 「奥さん」 ミーチャがさえぎった。「僕が思い浮かべるのは、自分が絶望の淵にあって、もしあなたに助けていただかなければ何もかもが崩れ去り、しかもまっ先に僕が破滅するのだという、ただその事だけなんです。月並な言い方で申し訳ありません、熱に浮かされているんです、熱病にかかっているんです･･･」
「分っております、熱病にかかられているのは分っておりますわ、何もかも承知していましてよ、今の心情をお変えになるのはご無理というものですしね。あなたが何をおっしゃっても、私はとうに存じてますの。ずいぶん前からあなたの運命を気にかけてましてね、ドミートリィさん、その行方を追って研究してるんですもの･･･。何と言っても、私って経験豊かな魂の医者なんですのよ、ドミートリィさん」
経験豊かな患者 ― 2013-07-10
≪- Сударныя, если вы опытный доктор, то я зато опытный больной, - слюбезничал через силу Митя, - и предчувствую, что если вы уж так следите за судьбой моею, то и поможете ей в её гибели, но для этого позвольте мне наконец изложить пред вами тот план, с которым я рискнул явиться... и то, чего от вас ожидаю... Я пришёл, сударыня...≫
＜試訳＞ 「奥さん、あなたが経験豊かな医者なら、僕は経験豊かな患者ですよ」、ミーチャはやっとの思いでお追従を言った。「そのように僕の運命を見守って下さるからには、破滅に瀕している運命をあなたが救って下さるという予感がします。でもそのためには、もうそろそろ披歴させて下さい僕の計画を、それを携えて僕は無謀にもお伺いしたんです。･･･そして、あなたに期待申し上げる事もお聞き下さい･･･。私が伺いましたのはですね、奥さん･･･」
・ 夫人にウイットを返すのが精いっぱい、懇願する他ない状況のドミートリィが哀れです。
＜試訳＞ 「奥さん、あなたが経験豊かな医者なら、僕は経験豊かな患者ですよ」、ミーチャはやっとの思いでお追従を言った。「そのように僕の運命を見守って下さるからには、破滅に瀕している運命をあなたが救って下さるという予感がします。でもそのためには、もうそろそろ披歴させて下さい僕の計画を、それを携えて僕は無謀にもお伺いしたんです。･･･そして、あなたに期待申し上げる事もお聞き下さい･･･。私が伺いましたのはですね、奥さん･･･」
・ 夫人にウイットを返すのが精いっぱい、懇願する他ない状況のドミートリィが哀れです。
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