別れの直前に知り合うのが一番いい ― 2011-02-01
≪А вот здесь я уже четвёртый месяц жмву, и до сих пор мы с тобой не сказали слова. Завтра я уезжаю и думал сейчас, здесь сидя: как бы мне его увидать, чтобы проститься, а ты иидёшь мимо.
- А ты очень желал меня увидать?
- Очень, я хочу с тобой познакомиться раз навсегда и тебя с собой познакомить. Да с теми проститься. По моему всего лучше знакомиться пред разлукой.≫
<試訳> 「僕はここで暮らして四カ月目になるけど、お前とはこれまで互いに言葉も交わさなかったな。明日僕は発つんでね、今ここに座りながら考えてたんだよ、別れを言うためにどうやってあいつに会おうかって。そしたら何とお前が近くを通り過ぎるじゃないか」
「じゃあ、兄さんは僕とそんなに会いたかったの」
「とてもだよ、お前と最後に一度は知り合っておきたかったし、それに僕の事も知ってほしかったかったんだ。それでさよならだ。僕の考えじゃ別れの直前に知り合うのが一番いいんだ」
・ イワンは別れの前日になってアリョーシャと会おうと思い立ったようです。彼がなぜ突然この町にやって来たのかははっきりしませんが、父やカテリーナの事であまりに衝撃的な事が続きました。考え深い彼ですから、この地と決別してモスクワで新たな道を選ぶ事にしたのでしょう。
- А ты очень желал меня увидать?
- Очень, я хочу с тобой познакомиться раз навсегда и тебя с собой познакомить. Да с теми проститься. По моему всего лучше знакомиться пред разлукой.≫
<試訳> 「僕はここで暮らして四カ月目になるけど、お前とはこれまで互いに言葉も交わさなかったな。明日僕は発つんでね、今ここに座りながら考えてたんだよ、別れを言うためにどうやってあいつに会おうかって。そしたら何とお前が近くを通り過ぎるじゃないか」
「じゃあ、兄さんは僕とそんなに会いたかったの」
「とてもだよ、お前と最後に一度は知り合っておきたかったし、それに僕の事も知ってほしかったかったんだ。それでさよならだ。僕の考えじゃ別れの直前に知り合うのが一番いいんだ」
・ イワンは別れの前日になってアリョーシャと会おうと思い立ったようです。彼がなぜ突然この町にやって来たのかははっきりしませんが、父やカテリーナの事であまりに衝撃的な事が続きました。考え深い彼ですから、この地と決別してモスクワで新たな道を選ぶ事にしたのでしょう。
何かを期待するような眼差し ― 2011-02-02
≪Я видел, как ты на меня смотрел всё эти три месяца, в глазах твоих было какое-то беспрерывное ожидание, а вот этого-то я и не терплю, оттого и не подошёл к тебе. Но в конце я тебя научился уважать: твёрдно дескать стоит человечек. Заметь, я хоть и смеюсь теперь, но говорю серьёзно. Ведь ты твёрдно стоишь, да?≫
<試訳> 「お前がこの3ヶ月の間、絶えず何かを期待するような眼差しで僕を見つめているのを知ってたよ。耐えがたかったのはそれなんだ。それで、僕はお前に近づかなかったんだ。だけど、結局のところお前を尊敬する事を学んだよ。つまり、しっかりと地に足をつけた人間だからな。いいかい、今僕は笑ってるけど本気で話しているんだ。だってお前はしっかりと立っているじゃないか、そうだろう」
・ イワンは別れを前に偽らない気持を弟に吐露します。人々の和解のために信念を貫くアリョーシャの姿勢が兄に尊敬の念を抱かせたのでしょう。波乱の多い展開の中で、二人の兄弟が本音で語り合う様子は心が和みますが、その奥に言い知れぬ寂しさが潜んでいるようにも感じます。
<試訳> 「お前がこの3ヶ月の間、絶えず何かを期待するような眼差しで僕を見つめているのを知ってたよ。耐えがたかったのはそれなんだ。それで、僕はお前に近づかなかったんだ。だけど、結局のところお前を尊敬する事を学んだよ。つまり、しっかりと地に足をつけた人間だからな。いいかい、今僕は笑ってるけど本気で話しているんだ。だってお前はしっかりと立っているじゃないか、そうだろう」
・ イワンは別れを前に偽らない気持を弟に吐露します。人々の和解のために信念を貫くアリョーシャの姿勢が兄に尊敬の念を抱かせたのでしょう。波乱の多い展開の中で、二人の兄弟が本音で語り合う様子は心が和みますが、その奥に言い知れぬ寂しさが潜んでいるようにも感じます。
イワンは謎だ ― 2011-02-03
≪- Ождающий взгляд твой стал мне вовсе под конец не противен; напротив, полюбил я наконец твой ожидающий взгляд... Ты, кажется, почему-то любишь меня, Алёша?
- Люблю, Иван. Брат Дмитрий говорит про тебя: Иван - могила. Я говорю про тебя: Иван - загадка. Ты и теперь для меня загодка, но нечто я уже осмыслил в тебе, и всего только с сегодняшнего утра!≫
<試訳> 「期待するようなお前の眼差しが終いには全く不愉快じゃなくなったんだよ、逆に結局のところその眼差しが好きになったと言う訳さ・・・。なぜかは知らんがお前は僕を好きなようだな、アリョーシャ」
「好きですよイワン兄さん。兄さんの事をドミートリィ兄さんは“イワンは墓石だ”と言うんですけど、僕なら兄さんの事を“イワンは謎だ”って言いますね。兄さんは今だって僕には謎ですけど。でも、何かしら少しばかりはもう解けましたよ、それもほんのつい今朝ほどからね!」
・ 兄弟の間でこのような感情を持つ事はあるでしょうが普通は面と向かって口に出すのは稀です。互いに会うのはこれが最後だという気持があるからこそでしょう。イワンがいつになく自身の気持ちを露わにしているところに寛容なアリョーシャの存在を感じます。
- Люблю, Иван. Брат Дмитрий говорит про тебя: Иван - могила. Я говорю про тебя: Иван - загадка. Ты и теперь для меня загодка, но нечто я уже осмыслил в тебе, и всего только с сегодняшнего утра!≫
<試訳> 「期待するようなお前の眼差しが終いには全く不愉快じゃなくなったんだよ、逆に結局のところその眼差しが好きになったと言う訳さ・・・。なぜかは知らんがお前は僕を好きなようだな、アリョーシャ」
「好きですよイワン兄さん。兄さんの事をドミートリィ兄さんは“イワンは墓石だ”と言うんですけど、僕なら兄さんの事を“イワンは謎だ”って言いますね。兄さんは今だって僕には謎ですけど。でも、何かしら少しばかりはもう解けましたよ、それもほんのつい今朝ほどからね!」
・ 兄弟の間でこのような感情を持つ事はあるでしょうが普通は面と向かって口に出すのは稀です。互いに会うのはこれが最後だという気持があるからこそでしょう。イワンがいつになく自身の気持ちを露わにしているところに寛容なアリョーシャの存在を感じます。
嘴の黄色いひよっ子 ― 2011-02-04
≪- Что ж это такое? - засмеялся Иван.
- А не расвердишься? - засмеялся и Алёша.
- Ну?
- А то, что ты такой же точно молодой человек, как и все остальные двадцатитрёхлетние молодые люди, такой же молодой, молоденький, свежий и славный мальчик, ну жёлторотый наконец мальчик! Что, не очень тебя обилдел?≫
<試訳> 「いったいどういう事だい」 イワンが笑い出した。
「怒らないかい」 アリョーシャも笑い出した。
「言えよ」
「つまり、兄さんもやはり青年だって事です、ほかの23歳の青年と同じようにね。とても若々しくって溌剌と輝やいている若者、ほら、嘴の黄色いひよっ子なんです! どう、それほど気を悪くはさせなかったでしょう」
・ 二人とも笑いながら打ち解けた雰囲気で会話を続け、アリョーシャは“イワンの謎”が少し解けたとイワンをからかい気味に語ります。イワンは沈思黙考の人というイメージでしたが今はアリョーシャが言うように若々しい面が表れています。
- А не расвердишься? - засмеялся и Алёша.
- Ну?
- А то, что ты такой же точно молодой человек, как и все остальные двадцатитрёхлетние молодые люди, такой же молодой, молоденький, свежий и славный мальчик, ну жёлторотый наконец мальчик! Что, не очень тебя обилдел?≫
<試訳> 「いったいどういう事だい」 イワンが笑い出した。
「怒らないかい」 アリョーシャも笑い出した。
「言えよ」
「つまり、兄さんもやはり青年だって事です、ほかの23歳の青年と同じようにね。とても若々しくって溌剌と輝やいている若者、ほら、嘴の黄色いひよっ子なんです! どう、それほど気を悪くはさせなかったでしょう」
・ 二人とも笑いながら打ち解けた雰囲気で会話を続け、アリョーシャは“イワンの謎”が少し解けたとイワンをからかい気味に語ります。イワンは沈思黙考の人というイメージでしたが今はアリョーシャが言うように若々しい面が表れています。
ぴったりなんで驚いたよ ― 2011-02-05
≪- Напротив поразил совпадением! - весело и с жаром вскричал Иван, - Веришь ли, что я, после давешнего нашего свидания у ней, только об этом про себя и думал, об этой двадцатитрёхлетней моей жёлторотости, а ты вдруг теперь точно угадал и с этого самого начинаешь.≫
<試訳> 「それどころか、ぴったりなんで驚いたよ!」愉快そうに興奮してイワンが叫んだ。「信じられるかい、先程彼女と会って話した後この事だけを考えていたんだ、つまり23歳のこの僕が嘴が黄色いって事についてさ、ところが突然お前が見抜いたかのように、まさにその事を話し始めるじゃないか」
・ “嘴の黄色いひよっ子”と評したアリョーシャの鋭さにイワンが驚きます。カテリーナに惹かれながらの決別が彼には痛手だったようで、急にモスクワへ発とうとするのも関連しているようです。論理で割り切れない感情の問題での挫折体験が“嘴の黄色い”と自嘲させたのではないでしょうか。
<試訳> 「それどころか、ぴったりなんで驚いたよ!」愉快そうに興奮してイワンが叫んだ。「信じられるかい、先程彼女と会って話した後この事だけを考えていたんだ、つまり23歳のこの僕が嘴が黄色いって事についてさ、ところが突然お前が見抜いたかのように、まさにその事を話し始めるじゃないか」
・ “嘴の黄色いひよっ子”と評したアリョーシャの鋭さにイワンが驚きます。カテリーナに惹かれながらの決別が彼には痛手だったようで、急にモスクワへ発とうとするのも関連しているようです。論理で割り切れない感情の問題での挫折体験が“嘴の黄色い”と自嘲させたのではないでしょうか。
それでも生きたいんだ ― 2011-02-06
≪Я сейчас здесь сидел и, знаешь, что говорил себе: не веруй я в жизнь, разуверься я в дорогой женщине, разуверься в порядке вещей, убедись даже, что всё напротив беспорядочный, проклятый и может быть бесовский хаос, порази меня хоть и всё ужасы человеческого разочарования, - а я всё-таки захочу жить и уж как припал к этому кубу, то не оторвусь от него, пока его весь не осилю! Впрочем к тридцати годам наверно брошу кубок, хоть и не допью всего и отойду... не знаю куда.≫
<試訳> 「いいかい、僕が今ここに座って自分自身に言ってたのはこうなんだ。僕が人生の意義を信じれなくても、愛する女性を信頼できなくても、物事の秩序に疑いを抱き、逆に全てが無秩序で忌まわしい悪魔的混沌かも知れないと確信しても、そして人間を幻滅させるあらゆる惨禍が僕を襲ったとしても、それでも僕は生きたいんだ。そしてこの大杯に口をつけたからには、すっかり飲み干すまでは離れない。けれど30歳までにはきっと大杯を投げ捨てるだろうな、飲み干しきれなかったとしても。そして立ち去るよ・・・どこへかは分からないけど」
・ 先程までの寛いだ雰囲気から一転してイワンは情熱的に語り出します。生きる事への決意を自分に言い聞かせているかのようです。30歳を区切りとしているところが考えさせられます。
<試訳> 「いいかい、僕が今ここに座って自分自身に言ってたのはこうなんだ。僕が人生の意義を信じれなくても、愛する女性を信頼できなくても、物事の秩序に疑いを抱き、逆に全てが無秩序で忌まわしい悪魔的混沌かも知れないと確信しても、そして人間を幻滅させるあらゆる惨禍が僕を襲ったとしても、それでも僕は生きたいんだ。そしてこの大杯に口をつけたからには、すっかり飲み干すまでは離れない。けれど30歳までにはきっと大杯を投げ捨てるだろうな、飲み干しきれなかったとしても。そして立ち去るよ・・・どこへかは分からないけど」
・ 先程までの寛いだ雰囲気から一転してイワンは情熱的に語り出します。生きる事への決意を自分に言い聞かせているかのようです。30歳を区切りとしているところが考えさせられます。
狂おしい程の生への渇望 ― 2011-02-07
≪Но до тридцати моих лет, знаю это твёрдно, всё победит моя молодость, - всякое разочарование, всякое отвращение к жизни. Я спрашивал себя много раз: есть ли в мире такое отчаяние, чтобы победило во мне эту исступлённую и неприличную может быть жажду жизни, и решил, что, кажется, не такого, то-есть опять-таки до тридцати этих лет, а там уж сам не захочу, мне так кажется.≫
<試訳> 「けれど30歳までは僕の若さがあらゆる事、人生へのあらゆる嫌悪や失望に打ち克つ事、これは確信しているんだ。僕は自分自身に何度も問いかけたよ、僕の内なるこの狂おしく見苦しい程の生への渇望を打ち負かすような絶望がこの世にあるだろうかってね。そして恐らくそんなものは無いんだと結論づけたのさ。ただし、これもまた30までだ。その時分になればもう望みもしないだろうよ、そんな気がするんだ」
・ イワンが生きる意欲を熱っぽく語り続けます。それは喜びを求めるものではありません。人生への幻滅や嫌悪を克服するための苦悩に満ちた闘争宣言のようです。
<試訳> 「けれど30歳までは僕の若さがあらゆる事、人生へのあらゆる嫌悪や失望に打ち克つ事、これは確信しているんだ。僕は自分自身に何度も問いかけたよ、僕の内なるこの狂おしく見苦しい程の生への渇望を打ち負かすような絶望がこの世にあるだろうかってね。そして恐らくそんなものは無いんだと結論づけたのさ。ただし、これもまた30までだ。その時分になればもう望みもしないだろうよ、そんな気がするんだ」
・ イワンが生きる意欲を熱っぽく語り続けます。それは喜びを求めるものではありません。人生への幻滅や嫌悪を克服するための苦悩に満ちた闘争宣言のようです。
チェブラーシカ(カード) ― 2011-02-08
論理に反しても生きる ― 2011-02-09
≪Центростремительной силы ещё страшно много на нашей планете, Алёша. Жить хочется, и я живу, хотя бы и вопреки логике.≫
<試訳> 「求心力がこの我々の惑星にはまだまだ恐ろしくいっぱいあるんだよ、アリョーシャ。生きたいんだ、だから僕は論理に反していても生きているんだ」
・ イワンが「論理に反しても生きている」と言うからには彼の論理では生きる意味が無いと考えている事になります。社会の無秩序に幻滅を感じながらも生きる事を渇望せずにいれない気質を“カラマーゾフ的な一面だ、お前の中にも間違いなく居座っている”と彼はアリョーシャに語っています。
<試訳> 「求心力がこの我々の惑星にはまだまだ恐ろしくいっぱいあるんだよ、アリョーシャ。生きたいんだ、だから僕は論理に反していても生きているんだ」
・ イワンが「論理に反しても生きている」と言うからには彼の論理では生きる意味が無いと考えている事になります。社会の無秩序に幻滅を感じながらも生きる事を渇望せずにいれない気質を“カラマーゾフ的な一面だ、お前の中にも間違いなく居座っている”と彼はアリョーシャに語っています。
最も尊い墓地 ― 2011-02-10
≪Вот тебе уху принесли, кушай на здоровье. Уха славная, хорошо готовят. Я хочу в Европу съездить, Алёша, отсюда и поеду; и ведь я знаю, что поеду лишь на кладбище, но на самое, на самое дорогое кладбище, вот что!≫
<試訳> 「ほら魚スープが来たぞ、食べなよ。このスープは素晴らしく美味いぞ。僕はヨーロッパに行ってみたいんだよ、アリョーシャ、だからここから発つのさ。墓地に向かうだけだとは知ってるけどね、それでもなにしろ最も尊い墓地へだからな、そうなんだよ!」
・ ヨーロッパへの憧れを語るイワンです。当時のロシアの知識人の傾向だったのではないでしょうか。フランスでは市民革命を経て既に半世紀をはるかに過ぎる頃、帝政ロシアは政治的にも文化的にも遅れをとっていたと思われます。それにしても行きつく先が墓地と覚悟しているところが彼らしいです。
<試訳> 「ほら魚スープが来たぞ、食べなよ。このスープは素晴らしく美味いぞ。僕はヨーロッパに行ってみたいんだよ、アリョーシャ、だからここから発つのさ。墓地に向かうだけだとは知ってるけどね、それでもなにしろ最も尊い墓地へだからな、そうなんだよ!」
・ ヨーロッパへの憧れを語るイワンです。当時のロシアの知識人の傾向だったのではないでしょうか。フランスでは市民革命を経て既に半世紀をはるかに過ぎる頃、帝政ロシアは政治的にも文化的にも遅れをとっていたと思われます。それにしても行きつく先が墓地と覚悟しているところが彼らしいです。
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