全く下らん詩なんだ2011-07-01

 ≪- А старик?
- Поцелуй горит на его сердце, но старик остаётся в прежней идее.
- И ты вместе с ним, и ты? - горестно воскликнул Алёша. Иван засмеялся.
- Да ведь это же вздор, Алёща, ведь это только бестолкового студента, который никогда двухстихов не написал. Кчему ты в такой серьёз берешь?≫

<試訳> 「それで、老審問官はどうするんです?」
「口づけは彼の心の中で燃えているんだ、でも、老人は以前の観念に留まるのさ」
「それで、兄さんも彼と一緒なんでしょう、兄さんも」と、悲しげにアリョーシャが叫んだ。イワンは微笑んだ。
「まあ、これは全く下らん詩なんだ、アリョーシャ、これまでにほんの2行の詩も書いた事のない道理も分らん学生の詩に過ぎないじゃないか。どうしてお前はそんなにまじめに受け取るんだい」

・ アリョーシャは大審問官がイワンの思想を代弁していると考えているようです。その真剣な反応にイワンがやや当惑しています。

30まで生きりゃいいんだ2011-07-02

 ≪Уж не думаешь ли ты, что я прямо поеду теперь туда, к иезуитам, чтобы стать в сонме людей, поправляющих его подвиг? О господи, какое мне дело! Я ведь тебе сказал: мне бы только до тридцати лет дотянуть, а там, -кубок об пол!≫

<試訳> 「僕が今にも真っ直ぐにイエズス会に向かうとでも思ってるんじゃないだろうな、キリストの偉業を修正している輩の群れに加わろうとしてさ。やれやれ、僕には関係ないぜ! 言ったろう、僕はせいぜい30まで生きりゃいいんだ、そこで大杯を床にたたきつけるだけさ!」

・ イワンは重いテーマを詩に託して語り尽くし、演技を終えた役者のように現実の自分に戻って興奮と虚脱の心境のようです。ただ一人の聞き手のアリョーシャに感情をぶつけます。

地獄の苦悩を抱えて2011-07-03

 ≪- А клейкие листочки, а дорогие могилы, а голубое небо, а любимая женщина! Как же жить-то будешь, чем ты любить-то их будешь? - горестно восклицал Алёша. - С таким адом в груди и в голове разве это возможно? Нет, именно ты едешь, чтобы к ним примкнуть... а если нет, то убьёшь себя сам, а не выдержишь!≫

<試訳> 「でも、粘っこい若葉は、大切な墓は、蒼い空は、愛する女性はどうしたんです!どうやって生きて行くんです、何をもって兄さんはこれらを愛していけると言うんです」アリョーシャが悲しげに叫んだ。「胸と頭にそのような地獄の苦悩を抱えて、そうできるでしょうか。いや、兄さんはあの人達に加わろうと向かうにきまってる・・・ そうでないなら自殺するでしょう、持ちこたえられずに、兄さんは!」

・ イワンは現実世界の不条理に憤るがゆえに神に背を向けながら、それに代わる生き方も肯定できません。アリョーシャがそのような兄の苦悩を思い悲痛な声をあげます。“あの人達”というのは、キリストの教えに反するとされる宗派を指しています。

カラマーゾフの力さ2011-07-04

 ≪- Есть такая сила, что всё выдержит! - холодною уже усмешкой проговорил Иван.
- Какая сила?
- Карамазовская... сила низости Карамазовской.
- Это потонуть в разврате, задавить душу в растлении, да, да?≫

<試訳> 「あらゆる事に耐えられるような力があるのさ!」もはや冷やかな薄笑いを浮かべイワンは言った。
「どんな力なんです」
「カラマーゾフの力さ・・・ 下劣なカラマーゾフの力だよ」
「それは放蕩に身を沈めて退廃の中で魂を押し殺すという事じゃないですか、そうでしょう」

・ “兄さんは持ちこたえられない”と言ったアリョーシャに応えて、イワンは“カラマーゾフの力”で生き抜くと言います。したたかな父や情熱的な兄ドミートリィの激しい生き方が念頭にあるのかも知れません。嫌っていながらもカラマーゾフ家特有のエネルギーに頼ろうとするイワンです。

カリンズ2011-07-05

≪Ежегодно земля дарит нам щедро прозрачные красные жемчуга.≫

大地は毎年、惜しげもなく透きとおった朱の真珠を私達に贈ってくれる。

カラマーゾフ流にだよ2011-07-06

 ≪- Пожалуй и это... только до тридцати лет может быть я избегну, а там...
- Как же избегнешь? Чем избегнешь? Это невозможно с твоими мыслями.
- Опять-таки по-Корамазовски.
- Это чтобы "всё позволено"? Всё позволено, так ли, так ли?
Иван нахмурился и вдруг странно как-то побледнел.≫

<試訳> 「おそらくそうだろう・・・ せいぜい30歳までは何とか逃れられるかも知れない、それからは・・・」
「いったいどのように逃れるんです。何をもって逃れるんですか。兄さんの思想では不可能です」
「またしても、カラマーゾフ流にだよ」
「それは“全ては許される”ということですか。全ては許されるんですか、そうなんですか」
イワンは険しい表情になり、突然何か妙に青ざめた。

・ アリョーシャがイワンにこれまでになく強くはっきりと考えを問いただします。何とか兄を苦悩から救いたいと願っているからでしょう。カラマーゾフ流の生き方をすると言うイワン自身もそれが解決にならない事は十分知っています。
“全ては許される”は“神が存在しなければ”の条件付きですが、この後も大きな意味を持つ言葉となります。

否定はしないよ2011-07-07

 ≪А это ты подхватил вчерашнее словцо, которым так обиделся Миусов... а что так наивно выскочил и переговорил брат Дмитрмй? - криво усмехнулся он. - Да, пожалуй: "всё позволено", если уж слово произнесено. Не отрекаюсь. Да и редакция Митенька недурна.≫

<試訳> 「ああ、お前はミウソフが腹を立てた、昨日のあの言葉を持ち出したな・・・ そこにドミートリィが無邪気に口出しして受け売りしてた言葉だぞ」 彼は苦々しく微笑した。「おそらくそうだ。“全ては許される”のさ、もう口に出してしまったからにはな。否定はしないよ。ミーチェンカの表現も悪くはないしな」

・ ゾシマ長老の草庵で“全ては許される”を巡り議論されました。その場でミウソフがイワンの無神論的な思想を皆に批判的に紹介し、さらにドミートリィが「『悪行は許されるべきであるばかりか、あらゆる無神論者の立場からの最も必要な、最も賢明な出口として認められさえする』こうでしたね」(原卓也訳)と要約して表現した事を指しています。
“ミーチェンカ”はドミートリィの愛称で、さらに“ミーチャ”とも呼ばれます。それから実に多くの出来事があったのに、昨日の事だというのが意外です。

(ご覧いただいてありがとうございます。ブログをスタートしてから約1年半ですが今回で500回となりました。一語一語訳す毎にこの小説の深さ、凄さにますます魅了されます。皆さんに見ていただいているのを励みにこの深い森を歩み続けます。)

向日葵2011-07-08

≪Снова солнце светит на небе и пробудит надежду в нас. Ну, живём!≫

再び太陽が空に輝いて心に希望を呼び起こす。さあ、生きよう!

僕の居場所は無さそうだ2011-07-09

 ≪Алёша молча, глялел на него.
- Я, брат, уезжая думал, что имею на всем свете хоть тебя, - с неожиданным чувством проговорил вдлуг Иван, - а теперь вижу, что и в твоём сердце мне нет места, мой милый отшельник. От формулы: "всё позвольно" я не отрекусь, ну и что же, за это ты от меня отречешься, да, да?≫

<試訳> アリョーシャは黙ってイワンを見つめた。
「僕はな、アリョーシャ、ここを去ろうとして思ったんだ、世界中で少なくともお前だけは心が通じるってな」思いがけない感情をこめて急にイワンが言った。「だが、お前の心の中にも僕の居場所は無さそうだと今分ったよ、可愛い隠遁者さん。“全ては許される”という公式を僕は否定しないが、それがいったいどうだと言うんだい、そのせいでお前は僕を否定するのかい、え、そうなのかい」

・ イワンの孤独な寂しさが描かれます。二人の兄の傍にいるようにゾシマ長老に遣わされたアリョーシャは、彼等を苦悩から救おうと必死に努力しているのですが二人とも遠ざかって行くかのようです。

剽窃だぞ!2011-07-10

≪Алёша встал, подошёл к нему, и молча, тихо поцеловал его в губы.
- Литературное воровство! - вскричал Иван, переходя вдруг в какой-то восторг, - это ты украл из моей поэмы! Спасибо однако. Вставай, Алёша, идём, пора и мне и тебе.≫

<試訳> アリョーシャは立ち上がりイワンに近づくと、黙ったままそっと彼の唇に口づけをした。
「剽窃だぞ!」突然何か狂喜し出したようにイワンが叫んだ。「今の口づけは、僕の詩劇から盗み出したな、お前は!だが、ありがとう。さあ立てよアリョーシャ、僕にもお前にも時間がきた、行こうじゃないか」

・ キリストが大審問官に無言で口づけする印象的な場面がアリョーシャとイワンの間で再現されます。イワンは剽窃と言いますが、神を畏れず“全ては許される”とまで不遜にも言い切る彼の思想的苦悩に、もはや言葉もないアリョーシャの万感の想いを込めた気持の表現ではないでしょうか。アリョーシャが意図したものではなく咄嗟の衝動に思われます。イワンが素直に感謝するところに救われます。