あなたに対して数えきれない罪がある2019-11-01

 ≪- Ему вы очень нужны, именно теперь. Я не стал бы начинать об этом и вас преждевременно мучить, если б не необходимость. Он болен, он как помешанный, он всё просит вас. Он не мириться вас к себе просит, но пусть вы только придёте и покажетесь на пороге. С ним многие совешилось с того дня. Он понимает, как неисчислимо перед вами виновен.≫

<試訳> 「兄にはあなたが必要なのです、特に今がそうです。もし必要ないのなら、僕はこれを言い出したり、前もってあなたを苦しめるような事はしません。兄は病気なんです。精神を病んでいるように、ずっとあなたに来てもらいたいと頼んでいます。和解しようと頼んでいるのではありません。ただ行って戸口で顔を見せてやって下さればいいのです。あの日以来、兄には多くの変化が起きました。あなたに対して数えきれない罪があるのを悟っています。

・ ためらうカテリーナに、アリョーシャはドミートリィの様子を伝え、会いに行くよう頼みます。彼女に対する恨みはもうなく、むしろ彼女に対するこれまでの振舞いを悔いているのです。兄の希望に応えて、二人の心を繋ごうとするアリョーシャの熱意が言葉に表れます。

そんな事とても無理です2019-11-02

 ≪Не прощения вашего хочет: "меня нельзя простить" - он сам говорит, а только чтобы вы на пороге показались...
- Вы меня вдруг... - пролепетала Катя, - я всё дни предчувствовала, что вы с этим придёте... Я так и знала, что он меня позовёт!... Это невозможно!
- Путь невозможно, но сделайте. Вспомните, он в первый раз поражён тем, как вас оскорбил, в первый раз в жизни, никогда прежде не постигал этого в такой полноте!≫

<試訳> 謝っていただきたいと兄は思っていません。“ 僕を赦すなんてできないよ ” と言っているんです。ただあなたが戸口で顔を見せて下さるだけで…」
「突然そのような… 」 カーチャが言いさした。「この事であなたがお見えになるのは、このところずっと予感していました…。あの人が私を呼ぶのも分かっておりましたわ!…。そんな事、とても無理です!」
「無理ではあっても、そうして下さい。どんなにあなたを侮辱した事かと、初めて兄が衝撃を受けているのを思ってやって下さい。人生で初めてなんです、これほど完全に悟った事はこれまで一度もなかったのですから!

・ アリョーシャはドミートリィの変化を強調します。カテリーナに会いたがっている兄が以前のままではないのを確信した上です。婚約までしながら、これまでの二人は互いに素直になれず、温かく通い合うところがありませんでした。流刑の前に兄のわだかまりを解いてやりたいアリョーシャの一心です。

測り知れない苦しみに免じて2019-11-03

 ≪Он говорит: если она откжает придти, то я "во всю жизнь теперь буду несчастлив". Слышите: каторжный на двадцать лет собирается ещё быть счастливым - разве это не жалко? Подумайте: вы безвинно погибшего посетите, - с вызовом вырвалось и у Алёши, - его руки чисты, на них крови нет! Ради бесчисленного его страдания будущего, посетите его теперь!≫

<試訳> 兄は、もしあなたが来るのを断ったら “ 僕は今後一生不幸になる ” と言っています。いいですか、懲役20年の流刑囚がまだ幸せになるつもりでいるのです、これは哀れではありませんか? 考てみて下さい、あなたは無実の罪で破滅した人間を見舞うのですよ」 挑むような言葉がアリョーシャの口をついて出た。「兄の手は汚れていません、血がついてなどいません! 兄がこれから受ける測り知れない苦しみに免じて、どうか今から訪ねて下さい!

・ ドミートリィは出発の前に悔悟の念をカテリーナに伝えたいと強く望んでいます。アリョーシャも彼女が会う事が救いになると考え、無実の兄の切実な希望をかなえるために言葉を重ねて説得します。

兄を暗闇へ見送って下さい2019-11-04

 ≪Придите, проводите во тьму... станьте на пороге и только... Ведь вы должны, должны это сделать! - заключил Алёша, с неимоверною силой подчеркнув слово "должны".
- Должна, но... не могу, - как бы простонала Катя, - он на меня будет глядеть... я не могу.
- Ваши глаза должны встреититься. Как вы будете жить всю жизнь, если теперь не решитесь?≫

<試訳> 行って、兄を暗闇へ見送って下さい… 戸口に立つだけでいいんです…。あなたには是非ともそうする義務があるのですから!」 途方もなく力を込め “ 義務がある ” という言葉を際立たせてアリョーシャは言い切った。
「行くべきでなのでしょうね、でも… できませんわ」 呻くようにカーチャは言った。「あの人は私を見て… 私は行けません」
「目を合わさなくてはならないのです。今決意なさらなかったら、どうやって一生を過ごされるおつもりです?」

・ 兄のため、そしてカテリーナ自身のためにも会うべきだとアリョーシャは強調します。彼がこれほど強く人を動かそうとするところに、彼自身の変化をも感じます。
衝撃的だったこの事件が多くの人に大きな影響を与えました。それぞれが進むべき道を探って、なお生きていかなければなりません。エピローグでしみじみそれを考えさせられます。

一生苦しんだ方がましです2019-11-05

 ≪- Лучше страдать во всю жизнь.
- Вы должны придти, вы должны придти, - опять неумолимо подчеркнул Алёша.
- Но почему сегодня, почему сейчас?.. Я не могу оставить больного...
- На минуту можете, это ведь минута. Если вы не придёте, он к ночи заболеет грячкой. Не стану я говорить неправду, сжальтесь!≫

<試訳> 「一生苦しんだ方がましですわ」
「行かなければなりません、行く義務があるんです」 アリョーシャが再び頑なに説得した。
「でも、どうして今日なのです、なぜ今すぐですの?… 病人を置いて行けませんもの…」
「少しの間ならいいでしょう、ほんのちょっとの間ですから。もしあなたが行かれなければ、兄は夜までにきっと熱病になります。僕は嘘はつきません、憐れんでやって下さい!」
 
・ ドミートリィに会うのをためらうカテリーナは、病気のイワンがいる事も持ち出しますが、アリョーシャは引き下がりません。執拗に諭し、そして懇願します。二人にとって何か決定的な機会になると予感しているのでしょう。

行って下さるのですね2019-11-06

 ≪- Надо мной-то сжальтесь. - горько упрекнула Катя и заплакала.
- Стало быть придёте! - твёрдо проговорил Алёша, увидав её слёзы. - Я пойду скажу ему, что вы сейчас придёте.
- Нет, ни за что не говорите! - испуганно вскрикнула Катя. - Я приду, но вы ему вперёд не говорите, потому что я приду, но можент быть не войду... Я ещё не знаю...≫

<試訳> 「私にこそ同情していただきたいわ」 カーチャは苦しそうに非難して泣き出した。
「それでは、行って下さるのですね!」 彼女の涙を見てアリョーシャがきっぱりと言った。「あなたが今すぐ来て下さると、兄に言いに行きます」
「いえ、決しておっしゃらないで下さい」 びっくりしてカーチャが叫んだ。「私伺いますわ、でも前もってお話なさらないで、なぜって、行きますけど、中に入らないかも知れませんし…。まだ分かりませんもの…」

・ アリョーシャの粘り強さに、カテリーナがついに折れます。彼女とドミートリィの不幸ないきさつがここに至るまで影を落としていました。会う事で二人のわだかまりが消える事を、アリョーシャと願わずにいられません。

もし誰かと出会ったら2019-11-07

 ≪Голос её пресекся. Она дышала трудно. Алёша встал уходить.
- А если я с кем-нибудь встречусь? - вдруг тихо проговорила она, вся опять побледнев.
- Для того и нужно сейчас, чтобы вы там ни с кем не встретились. Никого не будет, верно говорю. Мы будем ждать, - настойчиво заключил он и вышел из комнаты.≫

<試訳> カテリーナの声が途切れた。息をするのが辛そうだった。アリョーシャは帰ろうと立ち上がった。
「でも、もし誰かと出会ったらどうします?」 また蒼ざめて、ふいに小さな声で彼女が言った。
「向こうで誰にも会わないためにも、今すぐ行く必要があるんです。誰も来ないでしょう、断言します。お待ちしていますよ」 念を押して言い終えると、彼は部屋を出た。

・ カテリーナの決心を確かめて、アリョーシャは先に兄の所に向かうのです。苦しむ心を深く理解しながら、最善の道を確信をもって示すところに、師のゾシマ長老の姿が重なります。アリョーシャは長老の遺訓で僧院から世間へと遣わされました。でも、軽々しく神を持ち出す事はほとんどなく、苦悩する人々に寄り添う実践的な愛そのものです。
“ 誰かと出会ったら… ” は、暗にグルーシェンカを指し、鉢合わせを恐れる気持ちでしょう。

市立病院の囚人病棟2019-11-08

 ≪Он поспешил в больницу, где теперь лежал Митя. На второй день после решения суда он заболел нервною лихорадкой и был отправлен в городскую нашу больницу, в арестантское отделение. Но врач Варвинский, по просьбе Алёши и многих других (Хохлаковой, Лизы и проч.) поместил Митю не с арестантами, а отдельно, в той самой каморке, в которой прежде лежал Смердяков.≫

<試訳> アリョーシャはミーチャが今入院している病院へと急いだ。判決後の二日目に彼は神経性の熱病になり、ここの市立病院の囚人病棟に送られた。しかしワルビンスキー医師は、アリョーシャや他の多くの人々 ( ホフラコワ夫人やリーザ、その他 ) の頼みに沿い、ミーチャを他の囚人達と一緒ではなく、別にして、以前スメルジャコフが入っていたと同じ個室に入れた。

・ ドミートリィが有罪判決の衝撃で病に倒れています。逮捕前まであれほどエネルギッシュだった彼ですが、身に覚えのない犯行の汚名を着せられて以来の絶え間ない尋問、監獄での生活と公判、判決後は流刑地での過酷な苦難を思う日々、さすがに精魂尽き果てたのでしょう。一審制で異議申し立ての道はないのですから、このような冤罪は当時少なくなかったに違いありません。

まずは慣れる必要がある2019-11-09

 ≪Правда, в конце корридоре стоял часовой, а окно было решётчатое, и Варвинский мог быть спокоен за свою поблажку, не совсем законную, но это был добрый и сострадательный молодой человек. Он понимал, как тяжело такому как Митя прямо вдруг перешагнуть в сообщество убийц и мошенников и что к этому надо сперва привыкнуть.≫

<試訳> 実際には廊下の端に看守が立っていたし窓には格子がはまっていたので、ワルビンスキーは完全に規則通りとは言えない寛大な処置に対して安心していられたのだが、それにしてもこの医師は善良で同情心に溢れた青年だった。彼はミーチャのような患者にとって、いきなり急に殺人犯や悪党の中に身を移すのがどれほど辛いか、それにはまずは慣れる必要があるのを理解していた。

・ ドミートリィは皆の願い出もあり、医師の配慮で個室に入れらています。金策に飛び回っていた頃からの無謀な行動や、モークロエでの夜を徹した酒宴、そこで逮捕直後から続いた尋問での厳しいやり取り、裁判での衝撃的展開など、不規則な生活が続いていたのですから心身共に疲労困憊状態なはずです。病気になって当然の状況でした。
作者も政治犯として収監され、他の囚人と共に過ごした体験があるので、それがどれほど辛いものかを知っているのです。ドミートリィへの配慮は、まるで自分にしてほしかった事を書いているかのようです。

その男は入れないように2019-11-10

 ≪Посещения же родных и знакомых были разрешены и доктором и смотрителем и даже исправником, всё под рукой. Но в эти дни посетили Митю всего только Алёша да Грушенька. Порывался уже два раза увидеться с ним Ракитин; но Митя настойчиво просил Варвинского не впускать того.
Алёша застал его сидящим на койке, в больничном халате, немного в жару, с головой, обёрнутою полотенцем, смоченным водой с уксусом.≫

<試訳> 身内と知人の見舞いは、医師と看守、さらに警察署長によってさえ内々に容認されていた。しかし、この数日ミーチャを見舞ったのはアリョーシャとグルーシェンカだけだった。ラキーチンがすでに2回面会しようと試みていたが、ミーチャはワルビンスキー医師に、その男は入れないように、とくれぐれも頼んでいた。
アリョーシャが会ってみると、兄は少し熱があって酢酸水で濡らしたタオルを頭に巻き病衣を着てベッドに腰掛けていた。

・ アリョーシャはカテリーナにすぐ来るように約束させた上で、ドミートリィを見舞います。起き上がっているのはそれほど重い病状ではないからでしょう。ラキーチンとの面会を嫌っているのは、彼が今回の事件を当事者の心情も考えずに盛んに記事にし、ジャーナリストとして名をあげて得意になっているのが不愉快なのです。