金よりも必要だったのは他のものだった2026-09-13

  ≪Я просто убил; для себя убил, для себя одного: а там стал ли бы я чьим-нибудь благодетелем или всю жизнь, как паук, ловил бы всех в паутину и из всех живые соки высасывал, мне, в ту минуту, всё равно должно было быть!.. И не деньги, главное, нужны мне были, Соня, когда я убил; не столько деньги нужны были, как другое...≫

<試訳> 「僕は単に殺した。自分のために殺したんだ、自分だけのために。それで僕が誰かの恩人になったり、それとも一生、蜘蛛のように皆を捕らえて蜘蛛の巣で皆の生き血を吸うようになろうとも、僕にはその瞬間、どうでもいいはずだった!…。それに殺した時、一番必要だったのは金はじゃなかった。ソーニャ、金よりも必要だったのは他のものだった…」

・ ラスコーリニコフの犯行時の心理分析が続きます。自分でも混乱しているようで、言う事が二転三転するので、真意をはかりかねます。

肩から払いのけたかった2026-09-12

 ≪Всю, всю муку всей этой болтовни я выдержал, Соня, и всю её с плеч стряхнуть пожелал: я захотел, Соня, убить без казуистики, убить для себя, для себя одного! Я лгать не хотел в этом даже себе! Не для того, чтобы матери помочь, я убил - вздор! Не для того я убил, чтобы, получив средства и власть, сделаться благодетелем человечества. Вздор!≫

<試訳> 「この、ありとあらゆる無駄口の苦しみをどれもこれも僕は耐え忍んだんだよ、ソーニャ、そしてそれを肩から払いのけたかった。僕は詭弁なしに殺したかったんだ、ソーニャ、自分自身のために、自分一人だけのために殺したかった! この事では自分にさえ嘘をつきたくなかった! 僕が殺したのは、母を助けようとしてじゃない ― 馬鹿な! 金と権力を手に入れて人々に善行を施すために、殺したわけじゃないんだ。馬鹿々々しい!」

・ なぜ老婆を殺したかについて、ラスコーリニコフが動機を語り続けます。それは物品の強奪が目的ではなく、自身の問題だったと言うのです。繰り返し自問自答し、うんざりして決着をつけたのです。その後の事を考える余裕はなかったでしょう。

ナポレオンなら実行しただろうか2026-09-11

 ≪Или что если задаю вопрос: вошь ли человек? - то, стало быть, уж не вошь человек для меня, а вошь для того, кому этого и в голову не заходит и кто прямо без вопросов идёт... Уж если я столько дней промучился: пошёл ли бы Наполеон или нет? - так ведь уж ясно чувствовал, что я не Наполеон...≫

<試訳> 「また、もし “ 人間は虱か?” 、こんな質問をしたとすると ― それはつまり、人間が虱じゃないという事になり、一方、こんな質問が頭に浮かびもせず、疑問も感じずにまっしぐらに進む者にとってのみ人間は虱なんだ… という事ぐらい僕は知ってたよ。ナポレオンなら実行しただろうか? と、これほど何日も悩んでいたのは、つまり、もう僕はナポレオンじゃないと、はっきり感じていたからなんだ」

・ ラスコーリニコフは老婆殺しを “ 虱を殺した ” と言ってのけました。思い悩み、逡巡する自分を断ち切るように決行したのですが、自分がナポレオンのようになりえない事は思い知っていたのです。その後の狼狽ぶりに、一層その感を強めます。

向こう見ずな事をしたと思わないだろうね2026-09-10

 ≪Я всё хотел забыть и вновь начать, Соня, и перестать болтать! И неужели ты думаешь, что я как дурак пошёл, очертя голову? Я пошёл как умник, и это-то меня и сгубило! И неужель ты думаешь, что я не знал, например, хоть того, что если уж начал я себя спрашивать и допрашивать: имею ль я право власть иметь? - то, стало быть, не имею права власть иметь.≫

<試訳> 「僕はすっかり忘れて新しくやり直したいと思ったんだ、ソーニャ、そしてむだ話をするのをやめたかった! 君はまさか、僕が馬鹿みたいに向こう見ずな事をしたと思わないだろうね? 僕は分別のある人間としてやった、それが僕を破滅させたんだ! それにまさか君は、もし僕が “ そんな権力を持つ権利があるのだろうか?” と自問し出したなら、それはつまり、権力を持つ資格がないという事だと、僕が知らなかったとは考えないだろうね」

・ ラスコーリニコフは相手に話しながら、犯行に至った経緯を自分で再確認しているようです。曖昧で回りくどい言い方です。
金貸しの老婆を殺す事で何を得ようとしたのか。思想上の行為なのか、金品が欲しかったのか、リザベータを巻き添えにしたのは何故かなど、動機の核心的な部分を具体的に明確に聞きたいものです。

悪魔に唆されたと知っているんだ2026-09-09

 ≪- Молчите ! Соня, я совсем не смеюсь, я ведь и сам знаю, что меня чёрт тащил. Молчи, Соня, молчи! - повторил он мрачно и настойчиво. - Я всё знаю. Всё это я уже передумал и перешептал себе, когда лежал тогда в темноте... Всё это я сам с собой переспорил, до последней малейшей черты, и всё знаю, всё! И так надоела, так надоела мне тогда вся эта болтовня!≫

<試訳> 「黙ってくれ!ソーニャ、僕は全然ふざけちゃいない。だって自分でも悪魔に唆されたと知っているんだ。黙って、ソーニャ、言わないでくれ!」 彼は憂鬱そうに執拗に繰り返した。「僕は全部知っている。そんな事は僕は暗闇の中で横になっていた時に、もう何度も考え、自分に囁いてみた…。それはみな、これ以上ないほどの細部まで僕が自分に問い質したことさ。だからすっかり分かっている、何もかも! それでその時、僕はこんな無駄口をあれこれ言うのにひどく飽きてしまってね、もう、うんざりしたんだ]

・ 信仰を語るソーニャを制して、ラスコーリニコフは何度も反芻し、悪魔に唆されたように犯行へと進んだと言うのです。自問自答だけでは検証もなく、堂々巡りになり、その輪の中に、今置かれている犯行後の苦悩や周囲の人々に及ぼす不幸が入る余地はなかったようです。

あなたは神様のおそばを離れたんですわ2026-09-08

 ≪- О, молчите, молчите! - вскрикнула Соня, всплеснув руками. - От бога вы отошли, и вас бог поразил, дьяволу предал!..
- Кстати, Соня, это когда я в темноте-то лежэал и мне всё представлялось, это ведь дьявол смущал меня? а?
- Молчите! Не смейтесь, богохульник, ничего, ничего-то вы не понимаете! О господи! Ничего-то, ничего-то он не поймёт!≫

<試訳> 「ああ、黙って、黙って下さい!」 ソーニャが両手を打ち鳴らして叫んだ。「あなたは神様のおそばを離れたんですわ、それで神様があなたを懲らしめて悪魔にお渡しになったのです!…」
「それなんだけどね、ソーニャ、これは僕が暗闇の中で横になっている時に絶えず頭に思い浮かんでね、とすると悪魔が唆したのかな? そうかい?」
「黙って下さい! ふざけるのはよして、あなたは神を冒瀆する人ですよ、何も、何もあなたは分かっていないのです! ああ、神様! 何も、本当に何もこの人は分からないのです!

・ ラスコーリニコフが、傲慢な理屈で殺人行為を正当化した事に対して、ソーニャが神の意志を推しはかって批判し、取り合わない彼を嘆きます。彼女は信仰が大きなよりどころです。彼の母も、手紙で 「 あなたは、昔のように神様にお祈りを捧げていますか。(略) 私は心ひそかに、近頃はやりの不信心があなたを見舞ってやしないかと案じています。そうだったら、私はお前のためにお祈りをしましょう」 と書いています。
実際、彼は母の懸念通り、信仰に触れる事はありません。ただ一か所、ソーニャが遣わした義妹の小さなポーリャが、階段を下りていく彼を呼び止めて伝言を伝えた時 「いつか僕のためにも祈ってくれないか」 と頼んだ印象的な場面がありました。
もし彼に強い信仰心があったなら、考え方や行動は違っていたでしょう。

勇気を出してしようと思っただけさ2026-09-07

 ≪У меня тогда одна мысль выдумалась, в первый раз в жизни, которую никто и никогда ещё до меня не выдумывал! Никто! Мне вдруг ясно, как солнце, представилось, что как же это ни единый до сих пор не посмел и не смеет, проходя мимо всей этой нелепости, взять просто-запросто всё за хвост и стряхнуть к черту! Я... я захотел осмелиться и убил... я только осмелиться захотел, Соня, вот вся причина!

<試訳> 「その時、人生で初めて一つの考えが浮かんだ。それは僕が思いつくまで誰も未だかつて思いつかなかった事だよ! 誰も! 突然、僕に太陽のように明らかに思い浮かんだのは、つまり今まで誰一人として、こんな不合理の傍を通りながら全くその尻尾をつかんで隅に放り捨てる事を思い切ってしなかったし、今もしない! 僕は… 僕は勇気を出してそれをしようと思い、それで殺した… 敢えてそれをしたいと思ったんだ、ソーニャ、だから殺した… 勇気を出してしようと思っただけさ、ソーニャ、 これが全ての理由なんだよ!」

・ ラスコーリニコフが説明する犯行に至った理由は、依然として抽象的で、果たしてソーニャに伝わったのか疑問です。誰もしなかった事を自分が敢行したのだと、善行を誇るかのようで、そこに罪の意識は全く感じられません。しかも、リザベータまで巻き添えにした事はどうなのか、問い質したいです。

敢然と実行することだけだ2026-09-06

 ≪Он был в каком-то мрачном восторге. (Действительно, он слишком долго ни с кем не говорил!) Соня поняла, что этот мрачный катехизис стал его верой и законом.
- Я догадался тогда, Соня, - продолжал он восторженно, - что власть даётся только тому, кто посмеет наклониться и взять её. Тут одно только, одно: стоит только посметь!≫

<試訳> ラスコーリニコフは何か暗い歓喜に浸っていた。 (実際、彼はあまりに長い間、誰とも話していなかった!) ソーニャは、このような陰鬱な教理が彼の信仰と法となっているのだと悟った。
「僕はその時悟ったんだ、ソーニャ」 彼は昂って話し続けた。「権力というのは、身を屈めてそれを取る勇気のある者に与えられるんだ。そこにあるのは、ただ一つ、敢然と実行することだけだ!」

・ ラスコーリニコフの考えが明らかになってきます。自分がその勇気ある者でありたいとの思いを募らせ、暗く孤独な状況から抜け出したい気持が、さらにそれを増幅させたのでしょう。

盲目な者だけが見抜けない2026-09-05

 ≪Кто много посмеет, тот у них и прав. Кто на большее может плюнуть, тот у них и законодатель, а кто больше всех может посметь, тот и всех правее! Так доселе велось и так всегда будет! Только слепой не разглядит!
Раскольников, говоря это, хоть и смотрел на Соню, но уж не заботился более: поймёт она или нет. Лихорадка вполне охватила его.≫

<試訳> 「多くの事を勇敢になし得る者、そいつが人々の間では正しいのさ。より多くの人を無視できる者、そいつが人々の立法者となる。誰よりも思い切って実行できる者が、誰よりも正しいんだ! これまでそうだったし、これからも常にそうなるだろう! ただ盲目な者だけが見抜けない!」
ラスコーリニコフはそう語りながら、ソーニャを見つめていたけれども、彼女が理解しているかどうかを、もう気にかけていなかった。彼はすっかり激しい興奮にとらわれていた。

・ ラスコーリニコフが持論を展開します。愚かな大衆を、力もった者が支配する、力こそ正義になっていると強調します。しかもその状況はいつまでも変わらないと固定的に見ています。人間や社会の進歩に対する失望や諦めが感じられます。話しているうちに興奮して病的に熱を帯びてくる、いつもの彼の様子です。
実際には帝政ロシアはやがて崩壊し、新しい価値観の体制となるのですが、それもまた崩れます。現今の状況に照らして、予言の様な彼の考えについて、あらためて考えさせられます。

皆が賢くなるなんて事は決してない2026-09-04

 ≪Потом я узнал, Соня, что если ждать, пока всё станут умными, то слишком уж долго будет... Потом я ещё узнал, что никогда этого и не будет, что не переменятся люди, и не переделать из никому, и труда не стоит тратить! Да, это так! Это из закон... Закон, Соня! Это так!.. И я теперь знаю, Соня, что кто крепок и силен умом и дуом, тот над ними и властелин!≫

<試訳> 「やがて僕は分かったんだよ、ソーニャ、もし皆が賢くなるまで待つとなると、それはあまりにも時間がかかり過ぎるだろうと…。さらに分かったのは、皆が賢くなるなんて事は決してない、人間は変わらないし誰にも作り変えられやしない、そんな努力をする値打ちもないという事さ! 全くその通りなんだ! これは法則…。法則なんだ、ソーニャ! そうだよ!… そして今や思い知ったよ、ソーニャ、頭脳と精神が堅固で強力な者が、人々の上に立つ支配者となるんだ!」

・ ラスコーリニコフが辿り着いた人間観です。観念的に人間をひとくくりにして、愚かで変わらないものだと決めつけています。個々の人間の尊厳を認めないこのような考え方が、極端な行動の背景となったのです。