マトリョーシカがいっぱい2010-10-11

最近マトリョーシカをデザインした小物をあちこちで見かけました。シンプルな形でカラフル、かわいらしい表情、そして異国的な感じが目にとまります。使うのがちょっと惜しいシールです。

明日、モスクワへですって!2010-10-12

 ≪-К несчастью, я завтра же может быть должен уехать в Москву и надолго оставить вас... И это к несчастию неизмненимо... - проговорил вдруг Иван Фёдоровч.
- Завтра, в Москву! -перекосилось вдруг всё лицо Катерины Ивановны, - но... но боже мой, как это счастливо! - вскричала она в один миг совсем изменившимся голосом, и в один миг прогнав свои слёзы, так что и следа не осталось.≫

<試訳> 「残念ですが僕は明日にでもモスクワへ出立して、あなたを長い間見捨てておかなければならないかも知れません・・・ これは残念ながら変更できないので・・・」 突然イワンが言った。
「明日、モスクワへですって!」 急にカテリーナの顔全体が歪んだ。 「でも・・・でも、まあ何て幸運なんでしょう!」 彼女は瞬く間に調子を変えた声で叫び、瞬時に涙を追いやって跡形さえもなかった。

・ 直前にカテリーナがイワンとアリョーシャに「あなた方お二人は私を決してお見捨てにならない・・・」と涙ながらに話したのに対するイワンの冷たい否定です。一瞬彼女はショックを受けた様子ですが、すぐにまた自分の感情を偽る言葉を発するのです。複雑な心理を描き切るまで追及し続ける作者の執念を感じます。

アリョーシャを驚かせる変身2010-10-13

≪Именно в один миг произошла в ней удивительная перемена чрезвычайно изумившая Алёшу: вместо плакавшей сейчас в каком-то надрыве своего чувства бедней оскорблённой девушки, явилась вдруг женщина, совершенно владеющая собой и даже чем-то чрезвычайно довольная, точно вдруг чему-то обрадовавшаяся.≫

<試訳> まさに一瞬にしてアリョーシャをひどく驚かせる凄い変化が彼女に生じたのだ。今し方、何か感情的に興奮して泣いていた哀れな傷ついた女の子に代わって、突然、完璧に自制した、まるでふいに何かを喜んでいるように満足しきっている女性が現れたのである。

・ ドミートリィに対する自己犠牲への決心を涙ながらに述べていたカテリーナが、イワンが去ることを聞いた途端に、突然人が変わったように嬉しげになるのです。自尊心が強く、感情の起伏の激しい気質がよく表れています。女優が演技しているのを観ているようです。

あなたを失うなんて不幸すぎますもの2010-10-14

 ≪- О, не то счастливо, что я вас покидаю, уж разумеется нет, - какбы поправилась она вдруг с милою светскокою улыбкой, - такой друг как вы не может этого подумать; я слишком напротив несчастна, что вас лишусь (она вдруг стремительно бросилась к Ивану Фёдровичу и , схватив его за обе руки, с горячим чувством пожала их); но вот что счастлив, это то, что вы сами, лично, в состоянии будете передать теперь в Москве, тётушке и Агаше, всё моё положение, весь тепрешний ужас мой, в полной откровенности с Агашей и щадя милую тётушку, так как сумеете это сделать.≫

<試訳> 「もちろん、あなたと離れるのが嬉しいんじゃありませんのよ、考えられもしませんわ」急に彼女はやさしく優雅な微笑みを浮かべ訂正するかのようであった「あなたは親友ですからそのようにお考えにはなりませんわね。それどころか私、あなたを失うなんてとても不幸すぎますもの(彼女はふいにイワンに勢いよく近寄って両手をとると熱した想いで握りしめた)。嬉しいというのはこういうことですのよ。今やあなたがご自身がモスクワで叔母とアガーシャにお伝えしてくれるってことです。私の状況を何もかも、私のこの怖ろしい出来事全部を、あなたができる限り、アガーシャにはすっかり明らかに、叔母には配慮して伝えていただくという事なんです」

・ カテリーナはイワンが急にモスクワへ発つという事を聞き一瞬衝撃を受けますが、すぐに「嬉しい」と言います。叔母と姉に事の次第をイワンに伝えてもらえるからというわけです。何か無理があるように思われます。細かに指示するところなどに彼女の性格が表れています。原文ではここの箇所が続いた一文なのですが試訳では区切りました。彼女に限らずどの人物も情熱的に語り続けることが多く、国民性の違いを感じます。作者自身が丁寧に語り尽くすということかも知れませんが。

舞台で喜劇を演じるかのように2010-10-15

 ≪- Я никогда не думал, я не могу этого представить! - воскликнул вдруг Алёша горестно.
- Чего, чего?
- Он едет в Москву, а вы вскрикнули, что рады. - это вы нарочно вскрикнули! А потом тотчас стали объясить, что вы не тому рады, а что напротив жалеете, что... теряете дуга, - но и это вы нарочно сыграли... как на театре, в комедии сыграли!≫

<試訳> 「僕は思いもよりませんでした、こんな事は想像もできません!」 急にアリョーシャは悲しそうに叫んだ。
「何なの、何がですか」
「兄さんがモスクワに行くというのに、あなたは嬉しいなんて叫ばれたんです。わざと叫ばれたんですよ!それでいてすぐ後で弁解し出したんです、そのことが嬉しいのじゃないって、そうではなく・・・友達を失うのが残念だって。でもこれはあなたが心にもなく演じられたんです・・・舞台で喜劇を演じるかのようにです!」

・ カテリーナはアリョーシャに自分の決意について意見を強く求めるのですが、彼はカテリーナが本心を偽っていると指摘します。このように率直に言えるところが彼の強さです。偽善も偽悪も悲劇を生み出すもとになりますが、ありのままに素直に生きるということが彼女には難しいようです。

朱に染まり眉を寄せて叫んだ2010-10-16

≪- На театре? Как?... Что это такое? - воскликнула Катерина Ивановна в глубоком мзумлении, вся вспыхнув и нахмурив бровь.
- Да как ни уверяйте его, что вам жалко в нём друга, а всё- таки вы настаиваете ему в глаза, что счастье в том, что он уезжает... - проговорл как-то совсем уже задыхаясь Алёша. Он стоял за столом и не садился.≫

<試訳> 「舞台でですって? どうして?・・・一体何のことなの?」 カテリーナは心底驚いて、朱に染まり眉を寄せて叫んだ。
「あなたが友を失うのが残念だと兄に断言したとしても、彼が去っていくのが嬉しいと面と向かって主張していることになるんです・・・」ほとんど息が詰まるようにあえぎながらアリョーシャは語った。彼はテーブルを前に立ち尽くし座らなかった。

・ アリョーシャがカテリーナの不合理を鋭く指摘します。彼の意見を聞きたいと迫った彼女ですが意外さに驚いています。アリョーシャの一途な行動は、時にこのように鋭く響きます。それぞれの登場人物に激しい感情の起伏が次々に襲います。アリョーシャと共に息詰まる思いです。

誰かが真実を言わなければ2010-10-17

 ≪О чём вы, я не понимаю...
- Да я и сам не знаю... У меня вдруг как будто озарение... Я знаю, что не хорошо это говорю, но я всё-таки всё скажу, - продолжал Алёша тем же дрожащим и перексекающимся годосом: - озарение моё в том, что вы брата Дмитрия может быть совсем не любите... ссамого начала... Да и Дмитрий может быть не любит вас тоже вовсе... с вамого начала... а только чтит... Я право не знаю, как я всё это теперь смею, но надо же кому-нибудь правду сказать... потому что никто здесь правды не хочет сказать...≫

<試訳> 「何をおっしゃっているのか分かりませんわ・・・」
「そう、僕自身だって分からないんです・・・。急に閃きのようなものがあるんです・・・。こんな事を言うのは良くないとは分かっているんですが、でもやはり全部言ってしまいます」 とアリョーシャは震える声で途切れながら話し続けた。「僕に閃いたのはこんな事です、あなたはきっとドミートリィ兄さんを全然愛していない・・・最初っからです・・・。そして恐らく兄さんもまたあなたをまるっきり愛してはいない・・・最初っから・・・ただ賛美しているだけ・・・。どうして僕が今このような事を敢えて言うのか本当のところ分かりませんが、でも誰かが真実を言わなくちゃいけない・・・だって誰もここでは真実を語ろうとしないからです・・・」

・ アリョーシャが震えながらドミートリィとカテリーナの偽りの愛を告発します。「誰も真実を語らない」中で、彼自身がその役割を担います。彼の指摘が事実なら、確かにこれまでの二人の間の複雑で奇妙な感情のもつれと行動が納得でき説得力があります。ドミートリィの偽悪的な振る舞いやカテリーナの自尊心に覆われていた本心が彼によって明らかにされるのです。ゾシマ長老に遣わされた彼の務めはこのように人々に自分の心を素直に見つめさせる事なのかもしれません。

偽って愛しているんです2010-10-18

 ≪- Какой правды? - вскричала Катерина Ивановна, и что-то истерическое зазвенело в её голосе.
- А вот какой, - пролепетал Алёша, как будто полетев с крыши; - позовите сейчас Дмитрия - я его найду, - и пусть он придёт сюда и возьмёт вас за руку, потом возьмёт за руку брата Ивана и соединит ваши руки. Потому что вы мучаете Ивана, потому только, что его любите... а мучите потому, что Дмитря надрывом любите... в неправду любите... потому что вверили себя так ... Алёша оборвался и замолчал.≫

<試訳> 「真実って、どんな事ですの?」 とカテリーナが叫んだが、その声には何かしらヒステリックな響きがあった。
「それはこのような事です」 アリョーシャは屋根から飛び降りるような思いでつぶやいた。「今すぐドミートリ兄さんを呼んで下さい。僕が探し出します。そしてここに来たらあなたの手を取らせ、それからイワン兄さんの手を取らせ、そしてあなたがたの手を繋がせるんです。あなたはイワン兄さんを苦しめてるからです、兄さんを愛しているからなんです・・・それなのに兄さんを苦しめています、なぜかってあなたはドミートリィ兄さんを感情の昂ぶりで愛しているんですから・・・偽って愛してるんです・・・ご自分でそう信じ込もうとなさっているからなんです・・・」 アリョーシャは黙りこみ口を閉ざした。

・ アリョーシャが思い切って彼女のなすべき事を話します。彼女が心を偽って愛するドミートリィと彼女を愛するイワン、三者が一同に会して和解するよう示すのです。皆が素直な気持ちそのままの関係になってほしいと切望するアリョーシャの考えです。ドミートリィに彼女とイワンの手を繋がせるよう彼女に促しているところが、両者の関係を表していると思います。悲痛とも言える彼の提案がどのように受け止められるのかと先を急ぎたくなる場面です。

あなたはとるに足らない夢想家2010-10-19

 ≪- Вы ... вы... вы маленький юродивый, вот вы кто! - и побледневшим уже лмцом и скривившимися от злобы губами отрезала вдруг Катерига Ивановна. Иван Фёдрович вдруг засмеялся и встал с места. Шляпа была в руках его.≫

<試訳> 「あなたは・・・あなたは・・・あなたは、とるに足らない夢想家ですわ、まさにあなたはそうよ!」 顔はもう真っ青になり、怒りで唇を歪めてカテリーナは突然きっぱりと言った。だしぬけにイワンが笑い出して席を立った。帽子を手にしていた。

・ "юродивый(ユラジーヴィ)"は「神がかり行者、瘋癲行者、聖愚者」などと訳されています。正教の民間信仰で、奇人や気のふれた放浪の行者が普通の人間を越えた神秘的な能力を持つと考えられていました。ここでは敢えて「夢想家」と訳しました。カテリーナがアリョーシャに対して罵るように言い放つのです。彼女の感情の激発が、かえって彼の指摘が的中している事をうかがわせます。

お前は誤解してるんだよ2010-10-20

≪- Ты ошибся, мой добрый Алёша, - проговорил он с выражением лица, которого никогда ещё Алёша у него не видел, - с выражением какой-то молодой искренность и сильно неудержимо откровенного чувства: - никогда Катерина Ивановна не любила меня! Она знала всё время, что я её люблю, хоть я и никогда не говорил ей не слова о моей любви, - знала, но меня не любила.≫

<試訳> 「お前は誤解してるんだよ、僕の優しいアリョーシャ」 これまでアリョーシャが見た事もない表情を顔に浮かべて彼は言った。それは何か若々しい誠実さと、抑えがたいほど激しい率直な気持ちのこもった表情だった。「一度だってカテリーナは僕を愛した事なんかないんだ!僕が愛しているのをこの人はずっと知っていたのさ、僕は一度も片言も僕の愛を口に出さなかったけど、知っていて僕を愛しはしなかったんだよ」

・ イワンが立ち去ろうとしつつ率直に自分の気持ちをアリョーシャに語ります。なかなか感情を表す事のない彼が、めずらしくカテリーナを愛していた事を明かします。それはアリョーシャの言った通りなのですが、彼女がイワンを愛していないというのは意外です。「誤解している」とアリョーシャを諫めますが、アリョーシャが二人を結びつけようとした必死さに「僕の優しい・・・」と親しく呼びかけ、素直に打ち明ける気になったのです。アリョーシャがいることで真実が明らかになったとも言えるでしょう。でも、どちらが事実なのかはまだ分かりません。
複雑な心理劇の展開に作者の筆力を見せつけられます。ドストエフスキーは実存主義の系譜に入れられたり、心理学に影響を与えたと言われています。文学の世界に限らず広い分野で汲みつくせない深さを持っているのだと思います。