帽子など置いて下さい2025-05-17

 ≪Отчего это, батюшка, происходит-с? Интересов общественных, что ли, нет-с али честны уж мы очень и друг друга обманывать не желаем, не знаю-с. А? Как вы думаете? Да фуражечку-то отложите-с, точно уйти сейчас собираетесь, право, неловко смотреть... Я, напротив, так рад-с...≫

<試訳> 「それはどこからくるんですかね? 社会への関心がないからでしょうか、それとも私達が正直すぎて互いにだまし合うのを望まないからでしょうか、分かりませんな、どうです? さあ、帽子など置いて下さい、今にも帰ろうとしておられるようですが、実際、気づまりですな…。私は、それどころか嬉しくてたまらんのですよ…」

・ ポルフィーリィのまとわりつくような語調がスコーリニコフに帰る隙を与えません。知らず知らずのうちに彼のペースに巻き込まれてしまいます。容疑者の心理を知り尽くした判事の経験の豊かさを感じます。

誰もがはにかんで口下手で2025-05-16

 ≪- коченют друг перед другом, сидят и взаимно конфузятся. У всех есть тема для разговора, у дам, например... у светских, например, людей высшего тона, всегда есть разговорная тема, c'ect de rigueur, а среднего рода люди, как мы, - все конфузливы и неразговорчивы... мыслящие то есть.≫

<試訳> 「お互いを前にして固くなって、座ったまま互いに気まずい思いをしているんですな。誰にだって話題はあるのものです、例えばご婦人方とか、… 上流社会の人々とかは、いつだって話題を持っていて 『それが必要不可欠だ』 というわけです。ところが私達のような中流の人間となると、誰もがはにかんで口下手で… つまり思索家なんですよ。

・ 判事は口下手どころか大いに饒舌で、無関係な説明を聞かされ続けるラスコーリニコフはうんざりでしょう。人間を分類してひとくくりにして論じられると、個々の多様性が軽視されます。『 』内はフランス語で書かれています。

会話の話題をどうしても見つけることができない2025-05-15

 ≪и... и заметили ль вы, Родион Романовиыч, что у нас, то есть у нас в России-с, и всего болеев наших петербургских кружках, если два умные человека, не слишком ещё между собою знакомые, но, так сказать, взаимно друг друга уважающие, вот как мы теперь с вами-с, сойдутся вместе, то целых полчаса никак не могут найти темы для разговора,≫

<試訳> 「そして…そしてお気づきですかな、ロジオン・ロマーノビッチ、わが国では、つまりここロシアでは、そしてとりわけこのペテルブルクの社会では、互いにそれほど親しくはないが、言わば互いに尊敬し合っている二人の聡明な人間、たとえば今のあなたと私ような人間が出会った場合、まる30分間というもの、会話の話題をどうしても見つけることができないのですよ、」

・ 早く尋問するか放免するよう苛立つラスコーリニコフに対して、ポルフィーリィ判事が大袈裟な持って回った言い方で釈明しようとしています。官舎の事を言ったり、大笑いしたりして無駄な時間を費やしているのは彼自身です。ラスコーリニコフが納得するとは思えません。

もう終わった人間2025-05-14

 ≪- Я вам одну вещь, батушка Родион Романович, скажу про себя, так сказать в объяснение характеристики, - продолжал, суетясь по комнате, Порфирий Петрович и по-прежнему как бы избегая встретиться глазами с своим голстем, - Я, знаете, человек холостой, этак несветский и неизвестный, и к тому же законченный человек, закоченелый человек-с, в семя пошёл и...≫

<試訳> 「ロジオンさん、ひとつ自分について言わしてもらいましょう、まあ性格の説明というところですな」 部屋をせわしげに歩きながら、ポルフィーリィ判事は、以前のように客人と視線を合わせるのを避けるようにして話を続けた。「私はですね、独り者で、およそ社交界に縁がないし名もない人間です。その上、もう終わった人間、固まった人間でしてね、もう種子になりかけていますよ…」

・ ポルフィーリィが何のつもりか、こんな場面で自分の事を話し出します。直ぐに用件に入らずに、尋問すべき相手に一身上の事を話す彼はかなり風変りな判事です。ラスコーリニコフの性格を知っての事でしょう。

手から帽子を離そうとしなかった。2025-05-13

 ≪Смешлив-с. По комплекции моей даже паралича боюсь. Да садитесь же, чтовы?.. Пожалуйста, батюшка, а тот подумаю, что вы рассердились...
Раскольников молчал, слушал и наблюдал, всё ещё гневно нахмурившись. Он, впрочем, сел, но не выпуская из рук фуражки.≫

<試訳> 笑い上戸でしてね。なにしろこの体質ですから、卒中でも起こしやしないかと心配しているほどですよ、さあ、お座りください、どうされました?… さあどうぞ、先生、でないと、ご立腹かと思ってしまいますよ…」
ラスコーリニコフは相変わらず怒ったように顔を曇らせて、黙って聞きながら観察していた。とはいえ、彼は腰をおろしたのだが、手から帽子を離そうとしなかった。

・ ポルフィーリィの粘着質で小馬鹿にするように感じる振る舞いは、ラスコーリニコフを苛立たせています。それでも言葉に何か事件に関することが含まれていないか、聞いているしかありません。

客人としてお迎えしているんです2025-05-12

 ≪Я напротив, так рад, что вы наконец-то к нам прибыли... Я как гостя вас принимаю. А за этот смех проклятый вы, батюшка Радион Романович, меня извините. Родион Романович? Ведь так, кажется, вас по батющике-то?.. Нервный человек-с, рассмешили вы меня очень остротою вашего замечания; иной раз, право, затрясусь, как гуммиластик, да этак на полчаса...≫

<試訳> 「それどころか、私はあなたがやっと私どもの所に来られたのが大変嬉しいんですよ…。客人としてお迎えしているんです。あの無作法な高笑いはお詫びします、ロジオン・ロマーノビッチさん。ロジオン・ロマーノビッチ、確か父称はそうでしたね? 神経が過敏なもので、あなたの鋭いご指摘に大いに笑わされましてね。時によると、実際、ゴム人形のように弾んで、身体を揺すって30分も笑い続ける事もあるんですよ…」

・ ラスコーリニコフには、判事の話が何か真剣味がないように感じられるようです。それでいて、判事の本心が気掛かりで、帰る事ができないでいます。犯罪者の心理なのでしょう。

これはみなつまらない事ですよ2025-05-11

 ≪- Господи! Да что вы это! Да об чём вас спрашивать, - закудахтал вдруг Порфирий Петрович, тотчас же изменяя и тон, и вид и мигом перестав смеяться, - да не беспокойтесь, пожалуйста, - хлопотал он, то опять бросаясь во все стороны, то вдруг принимаясь усаживать Раскольникова, - время терпит, время терпит-с, и всё это одни пустяки-с!≫

<試訳> 「まさか! 何をおっしゃるんですか! あなたにいったい何をお尋ねするんです」 とっさに笑うのをやめ、調子も態度もがらりと変えて、急にポルフィーリィ判事がけたたましい声で言い始めた。「まあ、どうぞご心配なさらずに」 彼はせかせか歩き出し、不意にラスコーリニコフに座るようすすめたりしながら、またあちこちへと動き回った。「時間はあります、時間は十分ありましてね、これはみなつまらない事ですよ!」

・ 帰ろうとするラスコーリニコフを、例によって判事は含みのある言い方でそれとなく引き止めます。ラスコーリニコフとしても、ここまで来た以上、判事がどれほど自分を疑っているのか、捜査の進み具合はどうか探りたい気持ちがあるでしょう。そうでなければ、黙って席を立って出て行けばいいのですから。

もし尋問するのでしたら2025-05-10

 ≪я отчасти от этого и болен был... одним словом, - почти вскрикнул он, почувствовав, что фраза о болезни ещё более некстати, ... одним словом : извольте или спрашивать меня, или отпустить, сейчас же... а если спрашивать, то не иначе как по форме-с! Иначе не дозволю; а потому, покамест прощайте, так как нам вдвоем теперь нечего длелать.≫

<試訳> 「僕が病気になったのも、幾分はこの事が原因なんです… 要するに」、 ラスコーリニコフは病気という語句がいっそう不適切だと感じて、ほとんど叫ばんばかりだった。「… 要するにですね、尋問するか、それとも今すぐ帰らせるかどっちかにして下さい。… もし尋問するのでしたら、是非とも形式通りにして下さい! それ以外はお断りします。ですから、今日のところはこれで失礼しますよ、今は二人でいても、何もしようがありませんから」

・ ラスコーリニコフが帰ろうとしながら、その理由をくどくどと述べ立てています。言い方のまずさを途中で悔やんだりするなど、動揺を隠せません。一方、判事は食いついた獲物に自由に語らせて、その弱みを観察しているようです。

葬儀に出なければならない2025-05-09

 ≪Мне некогда, у меня дело... Мне надо быть на похронах того самого раздавленного лощадьми чиновника, про которого вы... тоже знаете... - прибавил он, тотчас же рассердившись за это прибавление, а потому тотчас же ещё более раздражившись, - мне это всё надоело-с, слышите ли, и давно уже...≫

<試訳> 「僕は時間がないんです、用事があって…。例の馬車に轢かれた官吏の葬儀に出なければならないんで、それについてはあなたも… ご存じでしょうが…」 、ラスコーリニコフはそう言い足して、なぜか同時に、こう付け加えた事でいっそう苛立ってしまった。「僕はこんな事は何もかもうんざりなんです、いいですか、もう大分前からです…」

・ 出頭して書類の提出するように求めていながら、それに対してきちんと対応せず、無駄話を続ける判事に、ラスコーリニコフは苛立ちを増して帰ろうとしています。マルメラードフの葬儀への参加も気掛かりな様子です。

必要なら何なりとお尋ね下さい2025-05-08

 ≪- Порфирий Петрович, - начал он решительно, но с довольно сильною раздражителтностью, - вы вчера изъявили желание, чтоб я пришёл для каких-то допросов. (Он особенно упёр на слово: бопросов). Я пришёл, и если вам надо что, так спрашивайте, не то, позвольте уж мне удалиться.≫

<試訳> 「ポルフィーリィ判事」 と ラスコーリニコフは決然と、かなり激しい怒りを表して切り出した。「あなたは昨日、何らかの尋問のために僕に来ることを望まれていました。(彼は特に尋問という言葉を強調した) それで僕はやって来たのです。ですから必要なら何なりとお尋ね下さい。ないのなら、もう帰らせてもらいます」

・ 呼び出しておきながら、本題になかなか入らないので、ついにラスコーリニコが切り出します。その言葉に苛立ちがこもっています。これが判事の狙いなのではないでしょうか。