スプーン2010-07-21

ソ連時代のティースプーンです。スペード型のふっくらしたデザインに特徴があります。柄に「ц0.76」と価格が刻印されています。物価狂乱のインフレや、値段のラベルが何度も張り替えられる安売りなどの価格変動のない時代、今は昔の計画経済の証人です。

誰にも内緒で書いています2010-07-22

リーズからの手紙を読むアリョーシャ

≪В нём было к нему пмсьмецо, подписанное Lise, - тою самою молоденькою дочерью госпожи Хохлаковой, которая утром так смеялась над ним при старце. "Алексей Фёдорович, - писала она, - пишу вам от всех секретно, от мамащи , и знаю, как это нехорошо. Но я не могу больше жить, если не скажу вам того, что родилось в моём сердце, а этого никто кроме нас двоих не должен до времени знать.≫

<試訳>その封筒の中にリーズとサインされた彼への手紙が入っていた。ホフラーコワ夫人の若い娘、今朝、長老の前でアリョーシャをあんなにからかって笑ったあの娘である。”アレクセイ・フョードロビッチ-と彼女は書いていた-誰にも内緒で書いています、お母さんにだってです、どんなにいけないことかも知っていますわ。でも、私の心に芽生えたことをあなたにお話しせずにはこれ以上生きていけませんの、このことは私たち二人のほかには、誰にも時が来るまで知られてはいけないのです”

更けていく僧庵の夜、揺れる蝋燭の灯で静かに手紙に見入るアリョーシャの姿を思い浮かべます。心寄せるリーズの恋文のあたたかさが、先刻出会った荒々しい言葉と対比されてほのぼのとした気持ちを誘います。足が不自由なリーズは車椅子で母と共に僧院の場面で登場しています。他の作品でも「足の不自由な女性」が出てくるところを見ると、何か作者の籠められた意図を感じます。

生涯かけて愛します2010-07-23

リーズの告白が続く

≪Милвый Алёша, я вас люблю, люблю ещё с детства, с Москвы, когда вы были совсем не такой, как теперь, и люблю на всю жизнь. Я вас избрала сердцем моим, чтобы с вами соединиться, а в старости кончить вместе нашу жизнь.≫

<試訳>”いとしいアリョーシャ、あなたを愛しています、まだ子供のころからずっと、あなたが全然今と違ってらした、モスクワのころからお慕いしています、これからも生涯かけて愛しますわ。私、あなたと一緒になって、年老いて共に私たちの生涯を終えるために、私の心があなたを選んだのです。”

リーズは僧院でアリョーシャ会った時にからかうように笑い出して彼を戸惑わせたのですが、手紙では子供の頃からの想いを唐突に打ち明けています。やや、一方的な幼さを感じる文面が続きますが、今、傷心の孤独なアリョーシャにとってこの恋文は心温まるものでしょう。

法が定める時まで待ちましょう2010-07-24

リーズは結婚できるまでのことを考え巡らす

≪Конечно с тем условием, что вы выйдёте из монастыря. Насчёт же лет наших мы подождём, сколько приказано законом. К тому времени, я непременно выздоровлю, буду ходить и танцевать.≫

<試訳>”もちろん、あなたが僧院からお出になることをお約束いただいてのことですわ。私たちの年齢については、法が定める時まで待ちまでょうね。そのころまでには私、きっとすっかり良くなって歩き回ったり踊ったりできるでしょう。”

二人の将来について夢見る少女です。アリョーシャにあれこれ指示しているように思われます。相手のことよりも自分の想いでいっぱいなのでしょう。それにしても人間の激しい葛藤を描く作者が一方でこのように一途な少女の気持ちを表現する幅の広さには驚きます。

私、今日きっと泣いてしまいます2010-07-25

アリョーシャにどう思われるか不安なリーズ

≪"Вот я написала вам любовное письмо, боже мой, что я сделала! Алёша, не презирайте меня, и если я что сдела очень дурное и вас огорчила, то извините мня. Теперь тайна моей, погибшей навеки может быть, репутации, с ваших руках. Я сегодня непременно плакать, До свиданья, до ужасного свиданья. Lise  P.S. Алёша, только вы непременно, непременно, непременно придёте! Lise”≫

<試訳>”ついに私、あなたに恋文を書いてしまいましたわ、ああ、何てことをしたんでしょう! アリョーシャ、どうか私を軽蔑なさらないで下さいね、もし私がとっても愚かな事をしてあなたを傷つけてしまったのならどうかお許し下さい。永久に失ったかもしれない私の評判の秘密は、今はあなたの手の中です。私、今日きっと泣いてしまいます。さようなら、怖ろしい出会いまで。リーズ 
追伸 アリョーシャ、とにかく必ず、必ず、必ず、いらっしゃってね!リーズ”

対面して話しているような率直な文面で感情の溢れるまま書きあげたリーズですが、アリョーシャにどう思われるかという不安にとらわれます。明日会う約束になっているので、彼女は必ず来るように訴えていますが、彼は死の床に就いている長老の傍を離れない決心をしたところですからどのような展開になるのでしょう。

静かに心地よく笑い出した2010-07-26

手紙を読み終えるアリョーシャ

≪Алёша прочёл с удивлением, прочёл два раза, подумал и вдруг тихо, сладко засмеялся. Он было вздрогнул, смех этот показался ему греховным. Но мгновение спустя он опять рассмеялся так же тихо и так же счастливо.≫

<試訳>アリョーシャは驚きとともに読んだ、二度読み通して少し考え、そして急に静かに心地よさそうに笑い出した。この笑いが罪なのではと彼には思われて身震いしかけた。が、すぐにまた彼は同じように静かに幸せそうに笑い出すのだった。

一途な愛情の告白と共にあれこれ心配や注文を書き綴ったリーズの手紙を読み終えて、彼は幸せな想いで笑い出します。ほほえましい場面で作者の筆もいつになく軽く楽しそうです。

函館ハリストス正教会2010-07-27

函館の西部地区にある白亜のロシア正教会です。近くに聖ヨハネ教会、元町教会、東本願寺函館別院、聖パウロ修道女会函館修道院など宗教関連の建物が集まっています。立待岬からぐるりと函館山裾を巡る観光ルートの中ほどに位置しています。そのルートの西端の外人墓地には正教会の十字架をかたどった墓碑も見られ、この街がロシアとつながりが深かったことを偲ばせます。
北洋漁業が盛んだった頃にはロシア語通訳者がたくさんいたそうですが、ロシア極東大学函館校が設置されているように現在もその歴史は続いています。

不幸なあの人達をお守りください2010-07-28

祈りながら眠りに落ちるアリョーシャ

≪Медленно вложил он письмо в конвертик, перекрестился и лёг. Смятение души его вдруг прошло. "Господи, помилуй их всех, давешних, сохрани их несчастных и бурных, и направь. У тебя пути: ими же веси путями спаси их. Ты любовь, ты всем пошлёшь и радость!" бормотал крестясь, засыпая безмятежным сном, Алёша.≫

<試訳>ゆっくりと封筒に手紙を入れ、十字を切って横になった。彼の心の動揺は急に消え去った。”神様、先程会ったあの人達皆をお憐れみ下さい、不幸で波瀾に満ちたあの人たちを守り、お導き下さい。あなたには道があります。その道であの人たちをお救い下さい。あなたは愛です、皆に歓びをお与え下さい”十字を切り低い声で祈りながら、アリョーシャは穏やかな眠りに落ちた。

嵐のような一日をやっと終えて、敬虔な祈りのあと静かな眠りにつくアリョーシャの様子にほっとするものがあります。心を乱すたくさんの出来事、逃げ出したくなるような場面で踏み止まり、皆をつなぐ彼の存在の大きさを感じます。
≪ими же веси путями≫の部分、”веси”の訳し方が分からないので疑問符のついた訳です。

アリョーシャの眠りと共に第一部の訳が終わりました。引き続いて第二部に挑戦します。

死の前に全てを語り尽くしたい2010-07-29

死期の迫ったゾシマ長老が語る

≪Говорил он о многом , казалось, хотел бы всё сказать, всё высказать ещё раз, пред смертною мтнутой, изо всего недосказанного в жизни, и не поучения лишь одного ради, а как бы жаждая поделиться радостью и восторгом своим со всеми и вся, излиться ещё раз в жизни сердцем своим...≫

長老は多くのことについて話したが、それは死の時を前に今一度、命あるうちに言い尽せなかった全てを話し、語りつくしたいと望んでいるかのようだった。それは単に説教のためだけというのではなく、まるで自身の感激と歓喜を皆と共に分かち、命あるうちに今一度心の内を吐露したいと熱望しているようだった・・・。

早朝、眠りから覚めた長老は聖餐や懺悔を済ませ礼拝の後皆に別れを告げます。次々に修道僧たちが彼のもとに集まってきて狭い僧庵は溢れています。長老は弱ってはいますが語る言葉はしっかりとしていて、アリョーシャは傍に付き添ってその言葉を心に刻みます。

全ての世間の人々より劣っている2010-07-30

修道僧たちに語りかけるゾシマ長老

≪Любите друг друга, отцы, - учил старец(сколько за помнил Алёша). - Любите народ божий. Не святее же мы мирских за то, что сюда пришли и в сих стенах затворились, а напротив, всякмй сюда пришедший, уже тем самым, что пришёл сюда, познал про себя, что он хуже всех мирских и всех и вся на земле...≫

<試訳>「互いに愛し合うのじゃ、神父の皆さん、とゾシマ長老は諭した(アリョーシャが覚えている限りだが)。神の民を愛するのじゃ。出家してこの壁の中に入ったからといって、私どもが世間の人々より高潔ということはなく、むしろ反対にここに来た者は皆、まさにここに来たというそのことで、全ての世間の人々やこの世の全てに自分が劣っていることをすでに知ったことになるんじゃ・・・」

傍で聞いた長老の最後の説諭をアリョーシャが後で思い出してまとめた形になっています。愛を説き自惚れを戒めています。修道院に入ったから世俗の人より尊いのではなくむしろ逆だというのは、実践に裏付けられ考え抜かれた彼ならではの指摘です。