ひとかどの地主に ― 2024-08-01
≪У ней ведь был капитал. "Видите, как доверяю, Аркадий Иванович", - право, так и выразилась. Вы не верите, что так выразилась? А знаете: ведь я хозяином порядочным в деревне стал; меня в околотке знают. Книги тоже выписывал. Марфа Петровна сперва одобряла, а потом всё боялась, что я заучусь.≫
<試訳> 「あれは資産家でしたからな。“ これで私がどんなに信用しているか、お分かりでしょう、アルカージィ・イワーノビッ ” 、― 正直、こう言ったんですよ。あれがこのように言うなんて信じられんでしょう? それで、私は田舎でひとかどの地主になって、近隣からも知られるようになりましてね。書籍も取り寄せて購読しました。マルファは最初のうちは喜んでいたんですが、後になると、私が勉強に熱中するのではないかと心配しましてね」
・ スビドリガイロフが資産家になったのは、全く妻のマルファのおかげでした。やがて家庭教師のドゥーニャに言い寄って裏切り、二人の女性の気持ちを傷つけてしまいます。
<試訳> 「あれは資産家でしたからな。“ これで私がどんなに信用しているか、お分かりでしょう、アルカージィ・イワーノビッ ” 、― 正直、こう言ったんですよ。あれがこのように言うなんて信じられんでしょう? それで、私は田舎でひとかどの地主になって、近隣からも知られるようになりましてね。書籍も取り寄せて購読しました。マルファは最初のうちは喜んでいたんですが、後になると、私が勉強に熱中するのではないかと心配しましてね」
・ スビドリガイロフが資産家になったのは、全く妻のマルファのおかげでした。やがて家庭教師のドゥーニャに言い寄って裏切り、二人の女性の気持ちを傷つけてしまいます。
幽霊を信じますかな ― 2024-08-02
≪- Вы по Марфе Петровне, кажется, очень скучаете?
- Я? Может быть. Право, может быть. А кстати, верите вы в привидения?
- В какие привидения?
- В обыкновенные привиденя, в какие!
- А вы верите?
- Да, пожалуй, и нет, pour vous plfire... то есть не то что нет...≫
<試訳> 「亡くなられたマルファさんをとても懐かしがっておられるようですね?」
「私がですか? あるいはそうかも知れません。まったく、そうかも知れませんな。ところで、あなたは幽霊を信じますかな?」
「どんな幽霊ですか?」
「どんなといっても普通の幽霊ですよ」
「あなたは信じるんですか?」
「ええ、まあね、でも信じないと言ってもいいんですがね、『お望みなら…』、 といって、そうとも言いきれないのですよ…」
・ スビドリガイロフが突然話題を変えて、幽霊の話を持ち出します。
『 pour vous plfire... : お望みなら…』 はフランス語で言っています。聞き手のラスコーリニコフにも理解できるわけです。ロシアでは知識人の素養としてフランス語が必須でした。
- Я? Может быть. Право, может быть. А кстати, верите вы в привидения?
- В какие привидения?
- В обыкновенные привиденя, в какие!
- А вы верите?
- Да, пожалуй, и нет, pour vous plfire... то есть не то что нет...≫
<試訳> 「亡くなられたマルファさんをとても懐かしがっておられるようですね?」
「私がですか? あるいはそうかも知れません。まったく、そうかも知れませんな。ところで、あなたは幽霊を信じますかな?」
「どんな幽霊ですか?」
「どんなといっても普通の幽霊ですよ」
「あなたは信じるんですか?」
「ええ、まあね、でも信じないと言ってもいいんですがね、『お望みなら…』、 といって、そうとも言いきれないのですよ…」
・ スビドリガイロフが突然話題を変えて、幽霊の話を持ち出します。
『 pour vous plfire... : お望みなら…』 はフランス語で言っています。聞き手のラスコーリニコフにも理解できるわけです。ロシアでは知識人の素養としてフランス語が必須でした。
マルファがお出ましになるんですよ ― 2024-08-03
≪- Являются, что ли?
Свидригайлов как-то странно посмотрел на него.
- Марфа Петровна посещать изволит, - проговорил он, скривя рот в какую-то странную улыбку.
- Как это посещать изволит?
- Да уж три раза приходила. Впервой я её увидел в самый день похорон, час спустя после кладбища. Это было накануне моего отъезда сюда.≫
<試訳> 「それじゃあ、現れるんですか?」
スビドリガイロフは、何か奇妙な目つきでラスコーリニコフを見やった。
「マルファがお出ましになるんですよ」 何か妙なうす笑いで口を歪めて彼は呟いた。
「お出まし、とはどの様に?」
「そうですな、もう3度ほど現れましてね。最初に見たのは、葬儀の当日で、埋葬の後、1時間ほど経った時でしたな。そう、私がここに向かって出発する前の晩でした」
・ スビドリガイロフが見たのはマルファの亡霊でした。心に強い衝撃を受けた時に、幻視、幻聴というような事は起こり得るでしょう。それにしても、彼にとってマルファは、それほど大きな存在だったのだろうと思います。
Свидригайлов как-то странно посмотрел на него.
- Марфа Петровна посещать изволит, - проговорил он, скривя рот в какую-то странную улыбку.
- Как это посещать изволит?
- Да уж три раза приходила. Впервой я её увидел в самый день похорон, час спустя после кладбища. Это было накануне моего отъезда сюда.≫
<試訳> 「それじゃあ、現れるんですか?」
スビドリガイロフは、何か奇妙な目つきでラスコーリニコフを見やった。
「マルファがお出ましになるんですよ」 何か妙なうす笑いで口を歪めて彼は呟いた。
「お出まし、とはどの様に?」
「そうですな、もう3度ほど現れましてね。最初に見たのは、葬儀の当日で、埋葬の後、1時間ほど経った時でしたな。そう、私がここに向かって出発する前の晩でした」
・ スビドリガイロフが見たのはマルファの亡霊でした。心に強い衝撃を受けた時に、幻視、幻聴というような事は起こり得るでしょう。それにしても、彼にとってマルファは、それほど大きな存在だったのだろうと思います。
3度とも夢じゃない ― 2024-08-04
- Совершенно. Все три раза наяву. Придёт, поговорит с минуту и уйдёт в дверь; всегда в дверь. Даже как будто слышно.
- Отчего я так и дуамал, что с вами непременно что-нибудь в этом роде случается! - проговорил вдруг Раскольников и в ту же минуту удивился, что это сказал. Он был в сильном волнении.≫
<試訳> 「2度目は一昨日の明け方、旅の途中、マーラヤ・ビシェーラ駅ででしたな。3度目は、2時間前に私が滞在している宿の部屋の中で、その時は私が一人でしてね」
「夢じゃなく、現実にですか?」
「もちろんですよ。3度とも夢じゃないんですな。やって来て、1分ほど話をして戸口から帰って行くんです。いつも決まって戸口からです足音さえ聞こえるほどですよ」
「どういうわけか僕は、あなたにはきっと何かそのような類の事が起こりそうに思っていたんです」 ラスコーリニコフが不意にそう言った。そして同時に自分の言った事に驚いた。彼はひどく興奮していた。
・ マルファの亡霊が出ると真顔で言うスビドリガイロフに理解を示すラスコーリニコフです。二人はなぜか互いにうまが合うようにも感じます。けれどもラスコーリニコフは妹の件は許せないはずなのに、話題にしないのが妙です。
- Отчего я так и дуамал, что с вами непременно что-нибудь в этом роде случается! - проговорил вдруг Раскольников и в ту же минуту удивился, что это сказал. Он был в сильном волнении.≫
<試訳> 「2度目は一昨日の明け方、旅の途中、マーラヤ・ビシェーラ駅ででしたな。3度目は、2時間前に私が滞在している宿の部屋の中で、その時は私が一人でしてね」
「夢じゃなく、現実にですか?」
「もちろんですよ。3度とも夢じゃないんですな。やって来て、1分ほど話をして戸口から帰って行くんです。いつも決まって戸口からです足音さえ聞こえるほどですよ」
「どういうわけか僕は、あなたにはきっと何かそのような類の事が起こりそうに思っていたんです」 ラスコーリニコフが不意にそう言った。そして同時に自分の言った事に驚いた。彼はひどく興奮していた。
・ マルファの亡霊が出ると真顔で言うスビドリガイロフに理解を示すラスコーリニコフです。二人はなぜか互いにうまが合うようにも感じます。けれどもラスコーリニコフは妹の件は許せないはずなのに、話題にしないのが妙です。
私達の間には何かしら共通点がある ― 2024-08-05
≪- Во-от? Вы это подумали? - с удивлением спросил Свидригайлов, - да неужели? Ну, не сказал ли я, что между нами есть какая-то точка общая, а?
- Никогда вы этого не говорили! - резко и с азартом ответил Раскольников. - Не говорил?
- Нет!
- Мне показалось, что говорил. Давеча, как я вошёл и увидел, что вы с закрытыми глазами лежите, а сами делаете вид, - тут же сказал себе: "Это тот самый и есть!"≫
<試訳> 「なーんと? あなたはそう思いましたか?」 驚いてスビドリガイロフが尋ねた。「本当ですか? 私達の間には何かしら共通点がある、と私は言わなかったでしょうかね、どうでしょう?」
「絶対にそんなこと事を言ったことがありませんよ!」 きっぱりとそして、むきになってラスコーリニコフが答えた。
「言いませんでしたか?」
「断じて!」
「言ったような気がしたんですがね。先ほど、私が部屋に入って、あなたが目を閉じて、実は寝たふりをしているのを見た時、― “ ああ、これが例の男だ!” と独り言を言いましてね」
・ スビドリガイロフが、ラスコーリニコフに共通点があると言うのが分かるような気がします。孤独、失意、疑心、破滅… などの雰囲気を感じての事ではないかと推測します。
- Никогда вы этого не говорили! - резко и с азартом ответил Раскольников. - Не говорил?
- Нет!
- Мне показалось, что говорил. Давеча, как я вошёл и увидел, что вы с закрытыми глазами лежите, а сами делаете вид, - тут же сказал себе: "Это тот самый и есть!"≫
<試訳> 「なーんと? あなたはそう思いましたか?」 驚いてスビドリガイロフが尋ねた。「本当ですか? 私達の間には何かしら共通点がある、と私は言わなかったでしょうかね、どうでしょう?」
「絶対にそんなこと事を言ったことがありませんよ!」 きっぱりとそして、むきになってラスコーリニコフが答えた。
「言いませんでしたか?」
「断じて!」
「言ったような気がしたんですがね。先ほど、私が部屋に入って、あなたが目を閉じて、実は寝たふりをしているのを見た時、― “ ああ、これが例の男だ!” と独り言を言いましてね」
・ スビドリガイロフが、ラスコーリニコフに共通点があると言うのが分かるような気がします。孤独、失意、疑心、破滅… などの雰囲気を感じての事ではないかと推測します。
何もかも馬鹿げてる ― 2024-08-06
≪- Что это такое: тот самый? Про что вы это? - вскричал Раскольников.
- Про что? А право, не знаю про что... - чистосердечно, и как-то сам запутавшись, проболмотал Свидригайлов.
С минуту помолчали. Оба глядели друг на друга во все глаза.
- Всё это вздор! - с досадой вскрикнул Раскольников.. - Что ж она вам говорит, когда приходит?≫
<試訳> 「何ですそれは、これこそ例の男、とは何の話です」 ラスコーリニコフが叫んだ。
「何の話か、ですって? ところが本当のところ何の話か分かリませんのでして…」 スビドリガイロフは率直に、そして、自分でもまごついたように呟いた。
1分ほど黙り込んだ。二人は互いを目を見開いて見つめあった。
「何もかも馬鹿げてる!」 腹立たしい思いで、ラスコーリニコフが叫んだ。「それで、奥さんは現れた時に、何と言うんですか?」
・ スビドリガイロフが言った “ 例の男 ” に、ラスコーリニコフはドキリと反応します。あの犯行の事ではないか、と一瞬思ったのかも知れません。思わず問い返しても相手は謎めいた言葉で濁すので、さらに疑心を深めます。それでも二人の奇妙な会話が続きます。
- Про что? А право, не знаю про что... - чистосердечно, и как-то сам запутавшись, проболмотал Свидригайлов.
С минуту помолчали. Оба глядели друг на друга во все глаза.
- Всё это вздор! - с досадой вскрикнул Раскольников.. - Что ж она вам говорит, когда приходит?≫
<試訳> 「何ですそれは、これこそ例の男、とは何の話です」 ラスコーリニコフが叫んだ。
「何の話か、ですって? ところが本当のところ何の話か分かリませんのでして…」 スビドリガイロフは率直に、そして、自分でもまごついたように呟いた。
1分ほど黙り込んだ。二人は互いを目を見開いて見つめあった。
「何もかも馬鹿げてる!」 腹立たしい思いで、ラスコーリニコフが叫んだ。「それで、奥さんは現れた時に、何と言うんですか?」
・ スビドリガイロフが言った “ 例の男 ” に、ラスコーリニコフはドキリと反応します。あの犯行の事ではないか、と一瞬思ったのかも知れません。思わず問い返しても相手は謎めいた言葉で濁すので、さらに疑心を深めます。それでも二人の奇妙な会話が続きます。
時計を巻くのをお忘れでしたね ― 2024-08-07
≪- Она-то? Вообразите себе, о самых ничтожных пустяках, подивитесь человеку: меня ведь это-то и сердит. В первый раз вошла (я, знаете, устал: похоронная служба, со святыми упокой, потом лития, закуска, - наконец-то в кабинете один остался, закурил сигару, задумался), вошла в дверь: "А вы, говорит, Аркадий Иванович, сегодня за хлопотами и забыли в столовой часы завести".≫
<試訳> 「あいつがですか? まあそうですな、実に下らん事についてですよ、人間というのは不思議なものですなあ。ところが、それが私には腹立しいんでしてね。最初にやって来た時 ― 実は私は疲れ切っていました。葬儀、埋葬の祈祷、それから追悼の祈り、供養の饗応と続き、やっとの事で、書斎で一人になって葉巻をくゆらせて物思いにふけっていたんです ― そこに戸口から入って来ましてね。“ ねえ、アルカージィ・イワーノビッチ、今日は何かと忙しくて、食堂の時計を巻くのをお忘れでしたね ” と言うんですよ」
・ 葬儀が終わってすぐに、早々と妻マルファの亡霊が現れて小言を言われた、と話すスビドリガイロフは何かうれしそうにさえ感じます。疲れ切ってまどろんでいたので、夢うつつで幻影を見たのかもしれません。微笑ましさのある亡霊です。
<試訳> 「あいつがですか? まあそうですな、実に下らん事についてですよ、人間というのは不思議なものですなあ。ところが、それが私には腹立しいんでしてね。最初にやって来た時 ― 実は私は疲れ切っていました。葬儀、埋葬の祈祷、それから追悼の祈り、供養の饗応と続き、やっとの事で、書斎で一人になって葉巻をくゆらせて物思いにふけっていたんです ― そこに戸口から入って来ましてね。“ ねえ、アルカージィ・イワーノビッチ、今日は何かと忙しくて、食堂の時計を巻くのをお忘れでしたね ” と言うんですよ」
・ 葬儀が終わってすぐに、早々と妻マルファの亡霊が現れて小言を言われた、と話すスビドリガイロフは何かうれしそうにさえ感じます。疲れ切ってまどろんでいたので、夢うつつで幻影を見たのかもしれません。微笑ましさのある亡霊です。
道中を占ってあげましょうか ― 2024-08-08
≪А часы эти я, действительно, все семь лет, каждую неделю сам заводил, а забуду - так всегда, бывало, напомнит. На другой день я уж еду сюда. Вошёл, на рассвете, на станцию, - за ночь вздремнул, изломан, глаза заспаны, - взял кофею; смотрю - Марфа Петровна вдруг садится подле меня, в руках колода карт. "Не загадать ли вам, Аркадий Иванович, на дорогу-то?"≫
<試訳> 「実際、この時計は7年間、毎週自分で巻いていたんですが、忘れてしょっちゅう注意されたものです。翌日、私はもうこちらに向かって汽車に乗っていました。明け方、駅の食堂に入って、― 前の晩はうとうとまどろんだだけで、疲労困憊していたので、眠気で眼がとろんとしていましてね、― コーヒーを注文してふと見ると、― マルファが両手にトランプのカード一揃いを持って私の傍に座っていましてね、“ アルカージィ・イワーノビッチ、あなたの道中を占ってあげましょうか?” と言うんですよ」
・ マルファが現れたという一度目も二度目も、スビドリガイロフが疲れてもうろうとしている状態の時、という共通点があります。そのような時に夢うつつに関心事が強く現れてくるのはありそうな事です。
<試訳> 「実際、この時計は7年間、毎週自分で巻いていたんですが、忘れてしょっちゅう注意されたものです。翌日、私はもうこちらに向かって汽車に乗っていました。明け方、駅の食堂に入って、― 前の晩はうとうとまどろんだだけで、疲労困憊していたので、眠気で眼がとろんとしていましてね、― コーヒーを注文してふと見ると、― マルファが両手にトランプのカード一揃いを持って私の傍に座っていましてね、“ アルカージィ・イワーノビッチ、あなたの道中を占ってあげましょうか?” と言うんですよ」
・ マルファが現れたという一度目も二度目も、スビドリガイロフが疲れてもうろうとしている状態の時、という共通点があります。そのような時に夢うつつに関心事が強く現れてくるのはありそうな事です。
真新しい緑色の絹の服に着飾って ― 2024-08-09
≪А она мастерица гадать была. Ну, и не прощу же себе, что не загадал! Убежал, испугавшись, а тут, правда, и колокольчик. Сижу сегодня после дряннейшего обеда из кухмистерской, с тяжёлым желудком, - сижу, курю - вдруг опять Марфа Петровна, входит вся разодетая, в новом шелковом зелёном платье, с длиннейшим ховтом: "Здравствуйте, Аркадий Иванович! Как на ваш вкус моё платье? Аниська так не cошьёт".≫
<試訳> 「あれはトランプ占いの名人でしたのでね。占ってもらわなかったのが残念ですよ!驚いて走って逃げ出したんです。もっとも、そこでちょうど発車のベルが鳴りました。今日は小料理屋からとったひどい食事の後で、重い胃を抱えて椅子に掛け、葉巻をくゆらせていたところに、突然またマルファが真新しい緑色の絹の服に着飾って入って来ましたよ。“ こんにちはアルカージィ・イワーノビッチ!私の装いはあなたのお好みに合うかしら? アーニシカでもこんなにうまくは仕立てられませんわ ”」
・ マルファはまるでまだ生きているように、自然な物腰でスビドリガイロフに接します。何か滑稽味もあるほどで、怖さがありません。彼の追憶が生み出した幻影かも知れません。
<試訳> 「あれはトランプ占いの名人でしたのでね。占ってもらわなかったのが残念ですよ!驚いて走って逃げ出したんです。もっとも、そこでちょうど発車のベルが鳴りました。今日は小料理屋からとったひどい食事の後で、重い胃を抱えて椅子に掛け、葉巻をくゆらせていたところに、突然またマルファが真新しい緑色の絹の服に着飾って入って来ましたよ。“ こんにちはアルカージィ・イワーノビッチ!私の装いはあなたのお好みに合うかしら? アーニシカでもこんなにうまくは仕立てられませんわ ”」
・ マルファはまるでまだ生きているように、自然な物腰でスビドリガイロフに接します。何か滑稽味もあるほどで、怖さがありません。彼の追憶が生み出した幻影かも知れません。
結婚するつもりなんだがね ― 2024-08-10
≪(Аниська - это мастерица у нас в деревне, из прежних крепостных, в ученье в Москве была - хорошенькая девчёнка). Стоит, вертится передо мной. Я осмотрел платье, потом внимательно ей в лицо посмотрел: "Охота вам, говорю, Марфа Петровна, из таких пустяков ко мне ходить, беспокоиться". - "Ах бог мой, батюшка, уж и потревожить тебя нельзя!" Я ей голворю, чтобы подразнить её: "Я, Марфа Петровна, жениться хочу".≫
<試訳> 「(アーニシカというのは、私達の田舎のお針子で、農奴の出ですが、モスクワで修行をしたかわいい娘です)。妻は私の前に立って一回りするんですよ。私は服を観察してから、しげしげと彼女の顔を眺めました。“ マルファ・ペトロ―ブナ、こんなつまらない事のために私のところに来なくてもいいじゃないか” と言うと、― “ ああ、あなた、もう、ちょとお邪魔をしてもいけないんですの! ” と言いましてね。私はあいつをからかってやろうと思い、“俺はね、マルファ、結婚するつもりなんだがね” と言ってやりましてね」
・ 何とも滑稽味のある話で、聞いているうちに、スビドリガイロフの創作ではないのか、という感じもしてきます。ラスコーリニコフは、こんな話を聞いている暇はないjはずで、ずるずると付き合って時間がたっていくのがもどかしいです。
<試訳> 「(アーニシカというのは、私達の田舎のお針子で、農奴の出ですが、モスクワで修行をしたかわいい娘です)。妻は私の前に立って一回りするんですよ。私は服を観察してから、しげしげと彼女の顔を眺めました。“ マルファ・ペトロ―ブナ、こんなつまらない事のために私のところに来なくてもいいじゃないか” と言うと、― “ ああ、あなた、もう、ちょとお邪魔をしてもいけないんですの! ” と言いましてね。私はあいつをからかってやろうと思い、“俺はね、マルファ、結婚するつもりなんだがね” と言ってやりましてね」
・ 何とも滑稽味のある話で、聞いているうちに、スビドリガイロフの創作ではないのか、という感じもしてきます。ラスコーリニコフは、こんな話を聞いている暇はないjはずで、ずるずると付き合って時間がたっていくのがもどかしいです。
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