いささかのやましさもありません ― 2024-07-11
≪- Марфу-то Петровну вы тоже, говорят, уходили? - грубо перебил Раскольников.
- А вы и об этом слышали? Как, впрочем, не слыхать... Ну, насчёт этого вашего вопроса, право, не знаю, как вам сказать, хотя моя собственная совесть в высшей степени спокойна на этот счёт. То есть не подуамйте, чтоб я опасался чего-нибудь там этакого; всё это произведено было в совершенном порядке и в полной точности:≫
<試訳> 「そのマルファさんをも、やはりあなたが命を奪ったそうじゃないですか?」 ラスコーリニコフが乱暴に遮った。
「おや、その事もお聞きになったんですか? もっとも、耳にしないはずはないですな…。ところで、このあなたのご質問については、本当のところ、どのように言ってよいやら分かりません。もっとも、この件に関して、私の良心にはいささかのやましさもありませんがね。つまり、私がこの事で何か危惧の念を抱いているとはお考えにならないで下さい。あの事件は全て、紛れもなく順を踏んで、全く正確に、起こるべくして起こったのです」
・ スビドリガイロフの妻マルファが死亡した事について、彼の関与が噂されています。ラスコーリニコフがズバリと持ち出すと、彼はそれを否定します。当局の取り調べを受けた上で、拘束されずにこうして平然と出歩いているのですから嫌疑は晴れたのでしょう。疑念があるとはいえ、ラスコーリニコフに追及する資格はありません。
- А вы и об этом слышали? Как, впрочем, не слыхать... Ну, насчёт этого вашего вопроса, право, не знаю, как вам сказать, хотя моя собственная совесть в высшей степени спокойна на этот счёт. То есть не подуамйте, чтоб я опасался чего-нибудь там этакого; всё это произведено было в совершенном порядке и в полной точности:≫
<試訳> 「そのマルファさんをも、やはりあなたが命を奪ったそうじゃないですか?」 ラスコーリニコフが乱暴に遮った。
「おや、その事もお聞きになったんですか? もっとも、耳にしないはずはないですな…。ところで、このあなたのご質問については、本当のところ、どのように言ってよいやら分かりません。もっとも、この件に関して、私の良心にはいささかのやましさもありませんがね。つまり、私がこの事で何か危惧の念を抱いているとはお考えにならないで下さい。あの事件は全て、紛れもなく順を踏んで、全く正確に、起こるべくして起こったのです」
・ スビドリガイロフの妻マルファが死亡した事について、彼の関与が噂されています。ラスコーリニコフがズバリと持ち出すと、彼はそれを否定します。当局の取り調べを受けた上で、拘束されずにこうして平然と出歩いているのですから嫌疑は晴れたのでしょう。疑念があるとはいえ、ラスコーリニコフに追及する資格はありません。
医学的な結論 ― 2024-07-12
≪медицинское следствие обнаружило апоплексию, происшедшую от купания сейчас после обеда, с выпитою чуть не бутылкой вина, да и ничего другого и обнаружить оно не могло... Нет-с, я вот что про себя думал некоторое время, вот особенно в дороге, в вагоне сидя: не способствовал ли я всему этому... несчастью, как-нибудь там раздражением нравственно или чем-нибудь в этом роде? Но заключил, что и этого положительно быть не могло.≫
<試訳> 「医学的な結論は、一瓶近くのワインを飲みながら食事をして、その直後に水浴した事によって生じた脳出血だと明らかになりましてね、他の原因などは見出せなかったわけです…。いえね、私もある程度の時間、特にこの道中、列車の中で自分について考えましたよ。これら全ての… 不幸のもとになりはしなかったか、そこに、どうかして精神的な、あるいはそのような類の何かによって苦痛を与えやしなかったか、とですね。しかし、そのような事は全くなかったはずだ、という結論に達したのです」
・ スビドリガイロフは妻のマルファの突然の死について、自分への疑惑の噂を強く否定します。そのような風聞が広まったのは、常々彼がそのような人物だと見られていたせいかも知れませんが、実像は分かりません。事実や自分の気持ちを率直に語っています。
<試訳> 「医学的な結論は、一瓶近くのワインを飲みながら食事をして、その直後に水浴した事によって生じた脳出血だと明らかになりましてね、他の原因などは見出せなかったわけです…。いえね、私もある程度の時間、特にこの道中、列車の中で自分について考えましたよ。これら全ての… 不幸のもとになりはしなかったか、そこに、どうかして精神的な、あるいはそのような類の何かによって苦痛を与えやしなかったか、とですね。しかし、そのような事は全くなかったはずだ、という結論に達したのです」
・ スビドリガイロフは妻のマルファの突然の死について、自分への疑惑の噂を強く否定します。そのような風聞が広まったのは、常々彼がそのような人物だと見られていたせいかも知れませんが、実像は分かりません。事実や自分の気持ちを率直に語っています。
この行為がいかに醜悪であるか ― 2024-07-13
≪Раскльников засмеялся.
- Охота же так беспокоиться!
- Да вы чему смеётесь? Вы сообразите: я ударил всего только два раза хлыстиком, даже знаков не сказалось... Не считайте меня, пожалуйста, циником; я ведь в точности знаю, как это гнусно с моей стороны, ну и так далее; но ведь я тоже наверно знаю, что Марфа Петровна, пожалуй что, и рада была этому моему, так сказать, увлечению.≫
<試訳> ラスコーリニコフは笑い出した。
「それほど気にするとは、物好きですね」
「何をお笑いに? よくお考え下さい。私が鞭で打ったのはたった2度で、痕さえ残らないくらいだったんですよ…。どうか私を恥知らずな人間だと思わんでください。私だって、この行為がいかに醜悪であるかなど、よく分かっておるんですからね。けれどもマルファはおそらく、私のこの、何と言うか、見境のない振舞いを、むしろ喜んでいたらしいのを、私は間違いなく知っていますよ」
・ スビドリガイロフは家庭で横暴な面があったようです。それでも妻マルファは連れ添って来たのですから、夫婦の事情の本当のところは外からは分かりません。妻の死後、彼がドゥーニャへの執着を捨てきれずに、やって来た可能性があります。
- Охота же так беспокоиться!
- Да вы чему смеётесь? Вы сообразите: я ударил всего только два раза хлыстиком, даже знаков не сказалось... Не считайте меня, пожалуйста, циником; я ведь в точности знаю, как это гнусно с моей стороны, ну и так далее; но ведь я тоже наверно знаю, что Марфа Петровна, пожалуй что, и рада была этому моему, так сказать, увлечению.≫
<試訳> ラスコーリニコフは笑い出した。
「それほど気にするとは、物好きですね」
「何をお笑いに? よくお考え下さい。私が鞭で打ったのはたった2度で、痕さえ残らないくらいだったんですよ…。どうか私を恥知らずな人間だと思わんでください。私だって、この行為がいかに醜悪であるかなど、よく分かっておるんですからね。けれどもマルファはおそらく、私のこの、何と言うか、見境のない振舞いを、むしろ喜んでいたらしいのを、私は間違いなく知っていますよ」
・ スビドリガイロフは家庭で横暴な面があったようです。それでも妻マルファは連れ添って来たのですから、夫婦の事情の本当のところは外からは分かりません。妻の死後、彼がドゥーニャへの執着を捨てきれずに、やって来た可能性があります。
手紙の朗読も皆に飽きられた ― 2024-07-14
История по поводу вашей сестрицы истощилась до ижицы. Марфа Петровна уже третий день принуждена была дома сидеть; не с чем в городишко показаться, да и надоела она там всем с своим этим письмом (про чтение письма-та слышали?). И вдруг эти два хлыста как с неба падоют! Первым делом карету велела закладывать!..≫
<試訳> 「あなたの妹さんについての顛末もすっかり話題が尽きましてね。マルファはもう3日間も家にいるほかなかったんです。町に持って行く話の種もないし、それに手紙の朗読も皆に飽きられたようでした、(手紙の朗読についてはお聞きでしょう?)。そこへ突然の天からの恵みのように、2度の鞭が落ちたんです! 彼女はさっそく馬車の用意を言いつけましたよ!…」
・ マルファの死に関する疑惑を噂されているスビドリガイロフは、その時の彼女の状況をラスコーリニコフに説明します。彼女を鞭打った事も認めています。“ 手紙 ” は、ドゥーニャがスビドリガイロフに宛てたもので、強要された逢引きを断わるため仕方なく書いたものです。父親で家庭人である彼のマルファに対する振舞いを激しく非難し、そして寄る辺ない自分を苦しめて不幸にするのはどんなに下劣かを切々とたしなめています。これがドゥーニャの潔白を明かす決定的な証拠になりました。マルファはこれを読んで真実を知り、ドゥーニャへの仕打ちを悔いて、町中を一軒一軒回って涙を流しながら読み聞かせ、誤解を正したのでした。
<試訳> 「あなたの妹さんについての顛末もすっかり話題が尽きましてね。マルファはもう3日間も家にいるほかなかったんです。町に持って行く話の種もないし、それに手紙の朗読も皆に飽きられたようでした、(手紙の朗読についてはお聞きでしょう?)。そこへ突然の天からの恵みのように、2度の鞭が落ちたんです! 彼女はさっそく馬車の用意を言いつけましたよ!…」
・ マルファの死に関する疑惑を噂されているスビドリガイロフは、その時の彼女の状況をラスコーリニコフに説明します。彼女を鞭打った事も認めています。“ 手紙 ” は、ドゥーニャがスビドリガイロフに宛てたもので、強要された逢引きを断わるため仕方なく書いたものです。父親で家庭人である彼のマルファに対する振舞いを激しく非難し、そして寄る辺ない自分を苦しめて不幸にするのはどんなに下劣かを切々とたしなめています。これがドゥーニャの潔白を明かす決定的な証拠になりました。マルファはこれを読んで真実を知り、ドゥーニャへの仕打ちを悔いて、町中を一軒一軒回って涙を流しながら読み聞かせ、誤解を正したのでした。
侮辱される事がことさら嬉しい ― 2024-07-15
≪Я уж о том и не говорю, что у женщин случай такие есть, когда очень и очень приятно быть оскорблённою, несмотря на всё видимое негодование. Они у всех есть, эти случаи-то; человек вообще очень и очень даже любит быть оскорбленным, замечали вы это? Но у женщин это в особенности. Даже можно сказать, что тем только и пробавляются.
Одно время Раскольников думал было встать и уйти и тем покончить свидание. Но некоторое любопытство и даже как бы расчёт удержали его на мгновение...≫
<試訳> 「今更私が言うまでもない事ですが、女性には、明らかに憤懣やるかたない外見にもかかわらず、侮辱される事がことさら嬉しい場合があるものです。まあ誰でもそんな場合があるのですよ。人間は大体において、侮辱を大いに好むものですが、これにお気づきでしたか? だが、女性となると、これはまた格別です。ただそれだけで時を過ごしていると言ってもいいほどですよ」
いっとき、ラスコーリニコフは席を立って、この会見を打ち切ろうかと考えた。だが、ある種の好奇心と打算のようなものが、一瞬、彼を思いとどまらせた…。
・ スビドリガイロフの人間観、女性観は自分勝手な思い込みで、現在ではとても通用しません。予定を控えたラスコーリニコフが席を立ちかけながら、思いとどまった打算とは何でしょう。
Одно время Раскольников думал было встать и уйти и тем покончить свидание. Но некоторое любопытство и даже как бы расчёт удержали его на мгновение...≫
<試訳> 「今更私が言うまでもない事ですが、女性には、明らかに憤懣やるかたない外見にもかかわらず、侮辱される事がことさら嬉しい場合があるものです。まあ誰でもそんな場合があるのですよ。人間は大体において、侮辱を大いに好むものですが、これにお気づきでしたか? だが、女性となると、これはまた格別です。ただそれだけで時を過ごしていると言ってもいいほどですよ」
いっとき、ラスコーリニコフは席を立って、この会見を打ち切ろうかと考えた。だが、ある種の好奇心と打算のようなものが、一瞬、彼を思いとどまらせた…。
・ スビドリガイロフの人間観、女性観は自分勝手な思い込みで、現在ではとても通用しません。予定を控えたラスコーリニコフが席を立ちかけながら、思いとどまった打算とは何でしょう。
ほとんど喧嘩した事がありません ― 2024-07-16
≪- Вы любите драться? - спросил он рассеянно.
- Нет, не весьма, - спокойно отвечал Свилригайров.- А с Марфой Петровной почти никогда не дрались. Мы весьма согласно жили, и она мной всегда довольно оставалась. Хлыт я употоребил, во все наши семь лет, всего только два раза (если не считать ещё одного третьего случая, весьма, впрочем, двусмысленного):≫
<試訳>「あなたは喧嘩が好きなんですか?」 ラスコーリニコフはぼんやりした調子で尋ねた。
「いえ、それほどでも」 落ち着き払ってスビドリガイロフが」答えた。「マルファとはほとんど喧嘩した事がありませんよ。私共は大いに円満に暮らしていましたし、あいつも私にはいつも満足していました。鞭を使ったのは、この7年間でたった2回です。(もう一度あるにはありますが、はなはなだ曖昧なので、それは別として)」
・ たった2回とはいえ、女性を鞭打つのが公然だった時代背景を感じます。立場が逆だったら大問題だったでしょう。自分を相対化して相手の痛みを思う事の大切さは現在もなお必要です。
- Нет, не весьма, - спокойно отвечал Свилригайров.- А с Марфой Петровной почти никогда не дрались. Мы весьма согласно жили, и она мной всегда довольно оставалась. Хлыт я употоребил, во все наши семь лет, всего только два раза (если не считать ещё одного третьего случая, весьма, впрочем, двусмысленного):≫
<試訳>「あなたは喧嘩が好きなんですか?」 ラスコーリニコフはぼんやりした調子で尋ねた。
「いえ、それほどでも」 落ち着き払ってスビドリガイロフが」答えた。「マルファとはほとんど喧嘩した事がありませんよ。私共は大いに円満に暮らしていましたし、あいつも私にはいつも満足していました。鞭を使ったのは、この7年間でたった2回です。(もう一度あるにはありますが、はなはなだ曖昧なので、それは別として)」
・ たった2回とはいえ、女性を鞭打つのが公然だった時代背景を感じます。立場が逆だったら大問題だったでしょう。自分を相対化して相手の痛みを思う事の大切さは現在もなお必要です。
ありがたい言論の自由があった頃 ― 2024-07-17
≪в первый раз - два месяца спустя полсе нашего брака, тотчас же по приезде в деревню, и вот теперешний последний случай. А вы уж думали, я такой изверг, ретроград, крепостник? хе-хе... А кстати: не припомтите ли вы, Родион Романович, как несколько лет тому назад, ещё во времена благодетельной гласносьти, осрамили у нас всенародно и вселитературно одного дворянина - забыл фамилию! - вот ещё немку-то отхлестал в вагоне, помните?≫
<試訳> 「一回目は結婚して2か月経った時で、ちょうど村に着いた時、それと今回です。あなたはもう私がひどい悪党で、反動家で、農奴制支持者だとでもお考えだったのでしょう? へっへっ…。ついでながら、覚えていますかな、ロディオン・ロマーヌィッチ、数年前、まだありがたい言論の自由があった頃、我が国のある貴族が ― 名前は忘れましたがね ― ドイツの女性を鞭でひっぱたいた、というので新聞や雑誌でさんざん叩かれた事がありましたがね、覚えているでしょう?」
・ 言論の自由があった頃、というのは、1861年の農奴解放前後の風潮だそうです。Wikipediaによると、『文学者や思想家たちがこの時期に革命的な思想を展開し、ロシアの宿痾である農奴制と専制の非人間性を厳しく告発していった』。クリミヤ戦争の敗北その他の要因がありますが、活発な言論活動が、帝政下で農奴制制度の廃止の大きな力になったのでしょう。作者はちょうどその大きく変動するロシア社会を生きています。それにしても 「ありがたい言論の自由があった頃…」 という表現は自身の感慨をスビドリガイロフに言わせたのでしょうが、検閲下でよく許可されたものです。
<試訳> 「一回目は結婚して2か月経った時で、ちょうど村に着いた時、それと今回です。あなたはもう私がひどい悪党で、反動家で、農奴制支持者だとでもお考えだったのでしょう? へっへっ…。ついでながら、覚えていますかな、ロディオン・ロマーヌィッチ、数年前、まだありがたい言論の自由があった頃、我が国のある貴族が ― 名前は忘れましたがね ― ドイツの女性を鞭でひっぱたいた、というので新聞や雑誌でさんざん叩かれた事がありましたがね、覚えているでしょう?」
・ 言論の自由があった頃、というのは、1861年の農奴解放前後の風潮だそうです。Wikipediaによると、『文学者や思想家たちがこの時期に革命的な思想を展開し、ロシアの宿痾である農奴制と専制の非人間性を厳しく告発していった』。クリミヤ戦争の敗北その他の要因がありますが、活発な言論活動が、帝政下で農奴制制度の廃止の大きな力になったのでしょう。作者はちょうどその大きく変動するロシア社会を生きています。それにしても 「ありがたい言論の自由があった頃…」 という表現は自身の感慨をスビドリガイロフに言わせたのでしょうが、検閲下でよく許可されたものです。
あまり同情はしませんね ― 2024-07-18
≪Тогда ещё , в тот же самый год, кажется, и "Безобразный поступок Века" случился (ну, "Египетские-то ночи", чтение-то публичное, помните? Чёрные-то глаза! О, где ты золотое время нашей юности!). Ну-с, так вот, моё мнение: господину, отхлеставшему немку, глубоко не сочувствую, потому что и в самом деле оно...что же сочувствовать!≫
<試訳> あの時は、さらに、ちょうどあの年だったと思いますが、 “ 『世紀』誌の醜悪な行為 ” の事件も起こりましたな。(ほら、“ エジプトの夜 ” の公開朗読事件ですよ、覚えていますか? 黒い瞳よ! おお、わが青春の黄金の時は今いずこ!)。さてと、それで、私の考えはですね、ドイツ女性を鞭打った紳士にはあまり同情はしませんね。なぜなら、実際… 同情の余地はないのですから!」
・ 『世紀』は雑誌で、『エジプトの夜』はプーシキンの詩です。事件の内容は調べましたが分かりません。作者は実際に起こった事を作品に取り込んでいるので、当時の読者には現実感があったでしょう。 スビドリガイロフは自分がマルファを鞭打ったのは正当だと言いたげです。
<試訳> あの時は、さらに、ちょうどあの年だったと思いますが、 “ 『世紀』誌の醜悪な行為 ” の事件も起こりましたな。(ほら、“ エジプトの夜 ” の公開朗読事件ですよ、覚えていますか? 黒い瞳よ! おお、わが青春の黄金の時は今いずこ!)。さてと、それで、私の考えはですね、ドイツ女性を鞭打った紳士にはあまり同情はしませんね。なぜなら、実際… 同情の余地はないのですから!」
・ 『世紀』は雑誌で、『エジプトの夜』はプーシキンの詩です。事件の内容は調べましたが分かりません。作者は実際に起こった事を作品に取り込んでいるので、当時の読者には現実感があったでしょう。 スビドリガイロフは自分がマルファを鞭打ったのは正当だと言いたげです。
どんな進歩主義者でも ― 2024-07-19
≪Но при сем не могу не заявить, что случаются иногда такие подстрекательные "немки", что, мне кажется, нет ни единого прогрессиста, который бы совершенно мог за себя поручиться. С этой точки никто не посмотрел тогда на предмет, а между тем эта точка-то и есть настоящая гуманная, право-с так!≫
<試訳> 「しかし、この際、はっきり申し上げずにはいられないのですが、どんな進歩主義者でも、思うに、自分自身に自制を完全に保証しかねる挑発的な “ ドイツ女性 ” がいるものですよ。当時はこの観点からこの出来事を見た人は誰もいませんでした。ところが、この観点こそ、真に人道的なものですよ、本当のところ!」
・ 当時、ヨーロッパ諸国からドイツ人、ポーランド人、フランス人、ユダヤ人などが、ロシアの西方地域に移り住んでいます。ロシア人にとって、時に、そのような外来者はスラブの伝統になじまず、 “ 挑発的 ” に見えたのかも知れません。「カラマーゾフの兄弟」 に登場するポーランド人が悪役として描かれていたのを思い出します。ここではドイツ人女性への反感、蔑視が感じられます。とは言え、かつて34年間女帝として君臨したエカテリーナ2世はドイツ人で、生まれはプロイセン、現在のポーランド領です。エルミタージュ美術館の基礎を作るなど数々の偉業を成し遂げています。
<試訳> 「しかし、この際、はっきり申し上げずにはいられないのですが、どんな進歩主義者でも、思うに、自分自身に自制を完全に保証しかねる挑発的な “ ドイツ女性 ” がいるものですよ。当時はこの観点からこの出来事を見た人は誰もいませんでした。ところが、この観点こそ、真に人道的なものですよ、本当のところ!」
・ 当時、ヨーロッパ諸国からドイツ人、ポーランド人、フランス人、ユダヤ人などが、ロシアの西方地域に移り住んでいます。ロシア人にとって、時に、そのような外来者はスラブの伝統になじまず、 “ 挑発的 ” に見えたのかも知れません。「カラマーゾフの兄弟」 に登場するポーランド人が悪役として描かれていたのを思い出します。ここではドイツ人女性への反感、蔑視が感じられます。とは言え、かつて34年間女帝として君臨したエカテリーナ2世はドイツ人で、生まれはプロイセン、現在のポーランド領です。エルミタージュ美術館の基礎を作るなど数々の偉業を成し遂げています。
調子よく喋る人間 ― 2024-07-20
≪Проговорив это, Свидригайлов вдруг опять рассмеялся. Раскольникову явно было, что это на что-то твёрдо решившийся человек и себе на уме.
- Вы, должно быть, несколько дней сряду ни с кем не говорили? - спросил он.
- Почти так. Я что: верно, дивитесь, что я такой складной человек?
- Нет, я тому дивлюсь, что уж слишком вы складной человек.≫
<試訳> そう言ってスビドリガイロフは突然また笑い出した。ラスコーリニコフは明らかにこの男が、固い決意を持った、抜け目のない人間だと悟った。
「あなたは、きっと、もう何日も誰とも話していませんね?」 彼は質問した。
「まあそうですよ。それが何です。私がこんなに調子よく喋る人間なので驚いていますな?」
「いえ、あまりに理路整然と話される方なので驚いているんです」
・ 自分の事を隠し立てなく、次々に語り続けるスビドリガイロフの饒舌に、聞き役のラスコーリニコフは最初の嫌悪感が薄らいだようにさえ感じます。なかなか度量もあって、案外話せる相手だと思った感じもあります。
- Вы, должно быть, несколько дней сряду ни с кем не говорили? - спросил он.
- Почти так. Я что: верно, дивитесь, что я такой складной человек?
- Нет, я тому дивлюсь, что уж слишком вы складной человек.≫
<試訳> そう言ってスビドリガイロフは突然また笑い出した。ラスコーリニコフは明らかにこの男が、固い決意を持った、抜け目のない人間だと悟った。
「あなたは、きっと、もう何日も誰とも話していませんね?」 彼は質問した。
「まあそうですよ。それが何です。私がこんなに調子よく喋る人間なので驚いていますな?」
「いえ、あまりに理路整然と話される方なので驚いているんです」
・ 自分の事を隠し立てなく、次々に語り続けるスビドリガイロフの饒舌に、聞き役のラスコーリニコフは最初の嫌悪感が薄らいだようにさえ感じます。なかなか度量もあって、案外話せる相手だと思った感じもあります。
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