これはみなつまらない事ですよ ― 2025-05-11
≪- Господи! Да что вы это! Да об чём вас спрашивать, - закудахтал вдруг Порфирий Петрович, тотчас же изменяя и тон, и вид и мигом перестав смеяться, - да не беспокойтесь, пожалуйста, - хлопотал он, то опять бросаясь во все стороны, то вдруг принимаясь усаживать Раскольникова, - время терпит, время терпит-с, и всё это одни пустяки-с!≫
<試訳> 「まさか! 何をおっしゃるんですか! あなたにいったい何をお尋ねするんです」 とっさに笑うのをやめ、調子も態度もがらりと変えて、急にポルフィーリィ判事がけたたましい声で言い始めた。「まあ、どうぞご心配なさらずに」 彼はせかせか歩き出し、不意にラスコーリニコフに座るようすすめたりしながら、またあちこちへと動き回った。「時間はあります、時間は十分ありましてね、これはみなつまらない事ですよ!」
・ 帰ろうとするラスコーリニコフを、例によって判事は含みのある言い方でそれとなく引き止めます。ラスコーリニコフとしても、ここまで来た以上、判事がどれほど自分を疑っているのか、捜査の進み具合はどうか探りたい気持ちがあるでしょう。そうでなければ、黙って席を立って出て行けばいいのですから。
<試訳> 「まさか! 何をおっしゃるんですか! あなたにいったい何をお尋ねするんです」 とっさに笑うのをやめ、調子も態度もがらりと変えて、急にポルフィーリィ判事がけたたましい声で言い始めた。「まあ、どうぞご心配なさらずに」 彼はせかせか歩き出し、不意にラスコーリニコフに座るようすすめたりしながら、またあちこちへと動き回った。「時間はあります、時間は十分ありましてね、これはみなつまらない事ですよ!」
・ 帰ろうとするラスコーリニコフを、例によって判事は含みのある言い方でそれとなく引き止めます。ラスコーリニコフとしても、ここまで来た以上、判事がどれほど自分を疑っているのか、捜査の進み具合はどうか探りたい気持ちがあるでしょう。そうでなければ、黙って席を立って出て行けばいいのですから。
客人としてお迎えしているんです ― 2025-05-12
≪Я напротив, так рад, что вы наконец-то к нам прибыли... Я как гостя вас принимаю. А за этот смех проклятый вы, батюшка Радион Романович, меня извините. Родион Романович? Ведь так, кажется, вас по батющике-то?.. Нервный человек-с, рассмешили вы меня очень остротою вашего замечания; иной раз, право, затрясусь, как гуммиластик, да этак на полчаса...≫
<試訳> 「それどころか、私はあなたがやっと私どもの所に来られたのが大変嬉しいんですよ…。客人としてお迎えしているんです。あの無作法な高笑いはお詫びします、ロジオン・ロマーノビッチさん。ロジオン・ロマーノビッチ、確か父称はそうでしたね? 神経が過敏なもので、あなたの鋭いご指摘に大いに笑わされましてね。時によると、実際、ゴム人形のように弾んで、身体を揺すって30分も笑い続ける事もあるんですよ…」
・ ラスコーリニコフには、判事の話が何か真剣味がないように感じられるようです。それでいて、判事の本心が気掛かりで、帰る事ができないでいます。犯罪者の心理なのでしょう。
<試訳> 「それどころか、私はあなたがやっと私どもの所に来られたのが大変嬉しいんですよ…。客人としてお迎えしているんです。あの無作法な高笑いはお詫びします、ロジオン・ロマーノビッチさん。ロジオン・ロマーノビッチ、確か父称はそうでしたね? 神経が過敏なもので、あなたの鋭いご指摘に大いに笑わされましてね。時によると、実際、ゴム人形のように弾んで、身体を揺すって30分も笑い続ける事もあるんですよ…」
・ ラスコーリニコフには、判事の話が何か真剣味がないように感じられるようです。それでいて、判事の本心が気掛かりで、帰る事ができないでいます。犯罪者の心理なのでしょう。
手から帽子を離そうとしなかった。 ― 2025-05-13
≪Смешлив-с. По комплекции моей даже паралича боюсь. Да садитесь же, чтовы?.. Пожалуйста, батюшка, а тот подумаю, что вы рассердились...
Раскольников молчал, слушал и наблюдал, всё ещё гневно нахмурившись. Он, впрочем, сел, но не выпуская из рук фуражки.≫
<試訳> 笑い上戸でしてね。なにしろこの体質ですから、卒中でも起こしやしないかと心配しているほどですよ、さあ、お座りください、どうされました?… さあどうぞ、先生、でないと、ご立腹かと思ってしまいますよ…」
ラスコーリニコフは相変わらず怒ったように顔を曇らせて、黙って聞きながら観察していた。とはいえ、彼は腰をおろしたのだが、手から帽子を離そうとしなかった。
・ ポルフィーリィの粘着質で小馬鹿にするように感じる振る舞いは、ラスコーリニコフを苛立たせています。それでも言葉に何か事件に関することが含まれていないか、聞いているしかありません。
Раскольников молчал, слушал и наблюдал, всё ещё гневно нахмурившись. Он, впрочем, сел, но не выпуская из рук фуражки.≫
<試訳> 笑い上戸でしてね。なにしろこの体質ですから、卒中でも起こしやしないかと心配しているほどですよ、さあ、お座りください、どうされました?… さあどうぞ、先生、でないと、ご立腹かと思ってしまいますよ…」
ラスコーリニコフは相変わらず怒ったように顔を曇らせて、黙って聞きながら観察していた。とはいえ、彼は腰をおろしたのだが、手から帽子を離そうとしなかった。
・ ポルフィーリィの粘着質で小馬鹿にするように感じる振る舞いは、ラスコーリニコフを苛立たせています。それでも言葉に何か事件に関することが含まれていないか、聞いているしかありません。
もう終わった人間 ― 2025-05-14
≪- Я вам одну вещь, батушка Родион Романович, скажу про себя, так сказать в объяснение характеристики, - продолжал, суетясь по комнате, Порфирий Петрович и по-прежнему как бы избегая встретиться глазами с своим голстем, - Я, знаете, человек холостой, этак несветский и неизвестный, и к тому же законченный человек, закоченелый человек-с, в семя пошёл и...≫
<試訳> 「ロジオンさん、ひとつ自分について言わしてもらいましょう、まあ性格の説明というところですな」 部屋をせわしげに歩きながら、ポルフィーリィ判事は、以前のように客人と視線を合わせるのを避けるようにして話を続けた。「私はですね、独り者で、およそ社交界に縁がないし名もない人間です。その上、もう終わった人間、固まった人間でしてね、もう種子になりかけていますよ…」
・ ポルフィーリィが何のつもりか、こんな場面で自分の事を話し出します。直ぐに用件に入らずに、尋問すべき相手に一身上の事を話す彼はかなり風変りな判事です。ラスコーリニコフの性格を知っての事でしょう。
<試訳> 「ロジオンさん、ひとつ自分について言わしてもらいましょう、まあ性格の説明というところですな」 部屋をせわしげに歩きながら、ポルフィーリィ判事は、以前のように客人と視線を合わせるのを避けるようにして話を続けた。「私はですね、独り者で、およそ社交界に縁がないし名もない人間です。その上、もう終わった人間、固まった人間でしてね、もう種子になりかけていますよ…」
・ ポルフィーリィが何のつもりか、こんな場面で自分の事を話し出します。直ぐに用件に入らずに、尋問すべき相手に一身上の事を話す彼はかなり風変りな判事です。ラスコーリニコフの性格を知っての事でしょう。
会話の話題をどうしても見つけることができない ― 2025-05-15
≪и... и заметили ль вы, Родион Романовиыч, что у нас, то есть у нас в России-с, и всего болеев наших петербургских кружках, если два умные человека, не слишком ещё между собою знакомые, но, так сказать, взаимно друг друга уважающие, вот как мы теперь с вами-с, сойдутся вместе, то целых полчаса никак не могут найти темы для разговора,≫
<試訳> 「そして…そしてお気づきですかな、ロジオン・ロマーノビッチ、わが国では、つまりここロシアでは、そしてとりわけこのペテルブルクの社会では、互いにそれほど親しくはないが、言わば互いに尊敬し合っている二人の聡明な人間、たとえば今のあなたと私ような人間が出会った場合、まる30分間というもの、会話の話題をどうしても見つけることができないのですよ、」
・ 早く尋問するか放免するよう苛立つラスコーリニコフに対して、ポルフィーリィ判事が大袈裟な持って回った言い方で釈明しようとしています。官舎の事を言ったり、大笑いしたりして無駄な時間を費やしているのは彼自身です。ラスコーリニコフが納得するとは思えません。
<試訳> 「そして…そしてお気づきですかな、ロジオン・ロマーノビッチ、わが国では、つまりここロシアでは、そしてとりわけこのペテルブルクの社会では、互いにそれほど親しくはないが、言わば互いに尊敬し合っている二人の聡明な人間、たとえば今のあなたと私ような人間が出会った場合、まる30分間というもの、会話の話題をどうしても見つけることができないのですよ、」
・ 早く尋問するか放免するよう苛立つラスコーリニコフに対して、ポルフィーリィ判事が大袈裟な持って回った言い方で釈明しようとしています。官舎の事を言ったり、大笑いしたりして無駄な時間を費やしているのは彼自身です。ラスコーリニコフが納得するとは思えません。
誰もがはにかんで口下手で ― 2025-05-16
≪- коченют друг перед другом, сидят и взаимно конфузятся. У всех есть тема для разговора, у дам, например... у светских, например, людей высшего тона, всегда есть разговорная тема, c'ect de rigueur, а среднего рода люди, как мы, - все конфузливы и неразговорчивы... мыслящие то есть.≫
<試訳> 「お互いを前にして固くなって、座ったまま互いに気まずい思いをしているんですな。誰にだって話題はあるのものです、例えばご婦人方とか、… 上流社会の人々とかは、いつだって話題を持っていて 『それが必要不可欠だ』 というわけです。ところが私達のような中流の人間となると、誰もがはにかんで口下手で… つまり思索家なんですよ。
・ 判事は口下手どころか大いに饒舌で、無関係な説明を聞かされ続けるラスコーリニコフはうんざりでしょう。人間を分類してひとくくりにして論じられると、個々の多様性が軽視されます。『 』内はフランス語で書かれています。
<試訳> 「お互いを前にして固くなって、座ったまま互いに気まずい思いをしているんですな。誰にだって話題はあるのものです、例えばご婦人方とか、… 上流社会の人々とかは、いつだって話題を持っていて 『それが必要不可欠だ』 というわけです。ところが私達のような中流の人間となると、誰もがはにかんで口下手で… つまり思索家なんですよ。
・ 判事は口下手どころか大いに饒舌で、無関係な説明を聞かされ続けるラスコーリニコフはうんざりでしょう。人間を分類してひとくくりにして論じられると、個々の多様性が軽視されます。『 』内はフランス語で書かれています。
帽子など置いて下さい ― 2025-05-17
≪Отчего это, батюшка, происходит-с? Интересов общественных, что ли, нет-с али честны уж мы очень и друг друга обманывать не желаем, не знаю-с. А? Как вы думаете? Да фуражечку-то отложите-с, точно уйти сейчас собираетесь, право, неловко смотреть... Я, напротив, так рад-с...≫
<試訳> 「それはどこからくるんですかね? 社会への関心がないからでしょうか、それとも私達が正直すぎて互いにだまし合うのを望まないからでしょうか、分かりませんな、どうです? さあ、帽子など置いて下さい、今にも帰ろうとしておられるようですが、実際、気づまりですな…。私は、それどころか嬉しくてたまらんのですよ…」
・ ポルフィーリィのまとわりつくような語調がスコーリニコフに帰る隙を与えません。知らず知らずのうちに彼のペースに巻き込まれてしまいます。容疑者の心理を知り尽くした判事の経験の豊かさを感じます。
<試訳> 「それはどこからくるんですかね? 社会への関心がないからでしょうか、それとも私達が正直すぎて互いにだまし合うのを望まないからでしょうか、分かりませんな、どうです? さあ、帽子など置いて下さい、今にも帰ろうとしておられるようですが、実際、気づまりですな…。私は、それどころか嬉しくてたまらんのですよ…」
・ ポルフィーリィのまとわりつくような語調がスコーリニコフに帰る隙を与えません。知らず知らずのうちに彼のペースに巻き込まれてしまいます。容疑者の心理を知り尽くした判事の経験の豊かさを感じます。
愚にもつかない無駄口で ― 2025-05-18
≪Раскольников положил фуражку, продолжая молчать и сериёзно, нахмуренно вслушиваться в пустую и сбивчивую болтовню Порфирия. "Да что он в самом деле, что ли, хочет внимание моё развлечь глупою своею болтовней?"
- Кофеем вас не прошу-с, не место; но минуток пять времени почему не посидеть с приятелем, для развлечения, - не умолкая сыпал Порфирий,≫
<試訳> ラスコーリニコフは相変わらず黙ったまま深刻そうに顔を曇らせて、ポルフィーリィのとりとめのない空疎な無駄口に耳を傾けながら帽子を置いた。“ いったい、こいつは愚にもつかない無駄口で僕の気をそらそうとしているのだろうか?”
「場所柄コーヒーは差し上げられませんが、5分ほどの時間は知人としてお付き合い下さってもいいでしょう、気晴らしになりますよ」 ポリフィーリィはのべつ喋り続けた。
・ 饒舌なポルフィーリィの “ 5分ほど ” は当てになりません。彼に限らず誰もが話し始めると長くなる傾向があるように感じます。一文も長くなって、途中で切って訳さざるを得ない事がよくあります。
- Кофеем вас не прошу-с, не место; но минуток пять времени почему не посидеть с приятелем, для развлечения, - не умолкая сыпал Порфирий,≫
<試訳> ラスコーリニコフは相変わらず黙ったまま深刻そうに顔を曇らせて、ポルフィーリィのとりとめのない空疎な無駄口に耳を傾けながら帽子を置いた。“ いったい、こいつは愚にもつかない無駄口で僕の気をそらそうとしているのだろうか?”
「場所柄コーヒーは差し上げられませんが、5分ほどの時間は知人としてお付き合い下さってもいいでしょう、気晴らしになりますよ」 ポリフィーリィはのべつ喋り続けた。
・ 饒舌なポルフィーリィの “ 5分ほど ” は当てになりません。彼に限らず誰もが話し始めると長くなる傾向があるように感じます。一文も長くなって、途中で切って訳さざるを得ない事がよくあります。
どうかお気を悪くなさらないで下さい ― 2025-05-19
≪- и знаете-с, все эти служебные обязанности... да вы, батюшка, не обижайтесь, что я вот всё хожу-с, взад да вперёд; извинете, батюшка, обидеть вас уж очень боюсь, а моцион так мне просто необходим-с. Всё сижу и уж так рад походить минут пять... геморрой-с... всё гимнастикой собираюсь лечиться; там, говорят, статские, действительные статские даже тайные советники охотно через веревочку прыгают-с;≫
<試訳> 「まったく、およそ職務上というものは… ところで、あなた、私がこうして行きつ戻りつ歩き回るからといって、どうかお気を悪くなさらないで下さい。すみませんね、あなたを怒らせやしないかとても心配でして、このように歩行の運動が私に必要なだけなのです。ずっと座っていますと、こうして5分ほど歩くのは嬉しいものです… 痔疾なんですよ… 体操で治そうとしてるわけです。噂では、5等文官、4等文官、3等文官までもが、喜んで縄跳びをしているそうですよ」
・ ラスコーリニコフは意を決し、緊張して出頭して散々待たされた上に判事のこのような饒舌をきかされています。彼にとってはどうでもいい内容で、いつまでも本題に入らず腹立たしい思いで聞いているはずです。
<試訳> 「まったく、およそ職務上というものは… ところで、あなた、私がこうして行きつ戻りつ歩き回るからといって、どうかお気を悪くなさらないで下さい。すみませんね、あなたを怒らせやしないかとても心配でして、このように歩行の運動が私に必要なだけなのです。ずっと座っていますと、こうして5分ほど歩くのは嬉しいものです… 痔疾なんですよ… 体操で治そうとしてるわけです。噂では、5等文官、4等文官、3等文官までもが、喜んで縄跳びをしているそうですよ」
・ ラスコーリニコフは意を決し、緊張して出頭して散々待たされた上に判事のこのような饒舌をきかされています。彼にとってはどうでもいい内容で、いつまでも本題に入らず腹立たしい思いで聞いているはずです。
尋問される方よりも尋問する方をまごつかせる ― 2025-05-20
≪вон оно как, наука-то, в нашем веке-с... так-с... А насчёт этих здешних обязанностей, допросов и всей этой формалистики... вот вы, батюшка, сейчас упомянуть изволили сами о допросах-с... так, знаете, действительно, батюшка Родион Романович, эти допросы иной раз самого допросчика больше, чем допрашиваемого, с толку сбивают...≫
<試訳> 「まったく、科学の時代ですからな今は… さてと… ここでの義務、尋問、形式全般に関してですが… ほら、あなたが今し方言及なされた尋問についてですが… いや、実際、ロジオン・ロマーノビッチ、この尋問というものは、時として尋問される方よりも尋問する方をまごつかせるものでしてね…」
・ とりとめない話をしていたポルフィーリィ判事が、ようやく尋問について触れます。ラスコーリニコフは質入れした品物についての届けを出しに来たのですが、もちろん尋問される事も覚悟の上です。一刻も早く取り掛かって済ませてほしいでしょう。
<試訳> 「まったく、科学の時代ですからな今は… さてと… ここでの義務、尋問、形式全般に関してですが… ほら、あなたが今し方言及なされた尋問についてですが… いや、実際、ロジオン・ロマーノビッチ、この尋問というものは、時として尋問される方よりも尋問する方をまごつかせるものでしてね…」
・ とりとめない話をしていたポルフィーリィ判事が、ようやく尋問について触れます。ラスコーリニコフは質入れした品物についての届けを出しに来たのですが、もちろん尋問される事も覚悟の上です。一刻も早く取り掛かって済ませてほしいでしょう。
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