僕は、まさに虫けらなんだ2010-02-17

ドミートリィは詩に寄せて自虐的な言葉を続ける

≪Я, брат, это самое насекомое и есть, и это обо мне специально и сказано. И мы все Карамазовы такие же, и в тебе, ангеле, это насекомое живёт, и в крови твоей бури родит.≫

<試訳> 僕はねえ、まさにこの虫けらなんだ。この詩は特に僕のことを語っているのさ。僕たちカラマーゾフは皆同じさ。天使のようなお前の中にだってこの虫は住んでいて、お前の血の中で嵐を起こすんだ。

カラマーゾフ一族の退嬰的傾向をドミートリィは宿命的なものと考えています。アリョーシャにさえそれが潜在していると何度か語るのです。清純さとこの傾向を併せ持つ形象で、アリョーシャがカラマーゾフ一家のリアルな存在となっています。人間を多面的に捉える作者らしいところだと思います。

人間は広い2010-02-18

ドミートリィの熱弁が続く

≪Нет, широк человек, слишком даже широк, я бы сузил. Чорт знает, что такое даже, вот что! Что уму представляется позором, то серцу сплошь красатой. ≫

<試訳> いや、人間は広い、広すぎるくらいだ。僕はせばめたいくらいだよ。一体それが何なのかわからんのさ、まったく! 理性には恥辱と思われるものが、心にはまったくの美と映るんだからなあ。

ドミートリィはさかんに人間存在の清純と汚濁、美徳と悪徳の一体性や混在を語っています。この少し前で「そこでは両極が一つに合し、あらゆる矛盾がいっしょくたに同居しているからな」(原訳)とあります。この後でも彼はこの論を続けます。暗にグルーシェンカのことも、関連させているようです。

美は怖ろしい2010-02-22

熱に浮かされたような彼の長広舌はさらに続く

≪Ужасно то, что красото есть не только страшная, но и таинственная вещть. Тут дьявол с богом боретья,а поле битвы - серца людей.≫

<試訳> ひどいことに、美は怖ろしいだけではなく神秘的なものでもあるんだ。そこじゃあ悪魔と神が闘っていて、その戦場こそ人間の心なのさ。

ドミートリィは湧き上がる想念を語り続けます。彼を通じて作者が思い切り自分の哲学をぶつけているようです。全体の言動を見ても作者に近いのはこのドミートリィじゃないかなと感じます。それにしても、彼らにとって神についてのテーマはこれほども重く、身近で、常に意識されるものなのでしょう。

同じ階段にいる兄弟2010-02-23

アリョーシャは自分も同じ階段にいて、いずれ兄と同じ所に行くことになると言う。

≪Все один и те же стуапеньки. Я на самой низшей, а ты вверху, где-нибудь на тринадцатой. я так смотрю на это дело, но это все одно и то же, совершенно однородное. Кто ступил на нижюю ступеньку, тот всё равно непременнро вступит и на верхнюю.≫

<試訳> みんな一つの同じ階段にいるんです。僕は一番下にいて、兄さんは上の、そう13番目かどっかの階段にいるんです。僕はこのことをそう見てるんです。でもどっちでも同じことで、完全に同類なんです。下段に踏み込んだ者はどっちみち必ず上の段に上っていくんですから。

自分の自堕落な生活を語る饒舌な兄を遮って、アリョーシャは自分も兄と変わらぬ同類(のカラマーゾフ)であると珍しく熱して語ります。自己卑下するドミートリィにとって、「地上の天使」とも呼ぶ弟アリョーシャとの絆には救われるものがあるのではないでしょうか。

絵皿2010-02-25

12㎝の金属製で、35年ほど前にソ連訪問の折に買いました。装飾用かもしれませんが、コースターとして使っています。
描かれている"Суздаль"(スズダリ)はモスクワ北東の古都の名です。裏に"ц50к”(50コペイカ)と刻印されていて物価変動のなかった当時のソ連を思わせます。

旅を予定していますので、しばらくこのブログを休みます。