憎悪をいっそうかきたてた ― 2025-05-01
≪Это многократное глупенькое повторение, что казенная квартира славная вещь, слишком, по пошлости своей, противоречило с серьёзным, мыслящим и загадочным взглядом, который он устремил теперь на своего гостя.
Но это ещё более подкипятило злобу Раскольникова, и он уже никак не мог удержаться от насмешливого и довольно неосторожного вызова.≫
<試訳> “ 官舎はいいものだ ” という、この馬鹿げた文句の再三の繰り返しは、その俗っぽさからして、今し方彼が訪問者に向けた凝視の真剣さ、考え深さ、謎めいた視線、などとあまりに矛盾していた。
だが、この事がラスコーリニコフの憎悪をいっそうかきたてた。それで彼は、相手を愚弄する、かなり不用意な挑戦をどうしても抑えきれなかった。
・ 判事の狙い通りに、じらされたラスコーリニコフが平静を失って経験豊かな判事に立ち向かおうとしています。弁の立つ彼とは言え、判事の術中にはまって墓穴を掘る可能性もあります。
Но это ещё более подкипятило злобу Раскольникова, и он уже никак не мог удержаться от насмешливого и довольно неосторожного вызова.≫
<試訳> “ 官舎はいいものだ ” という、この馬鹿げた文句の再三の繰り返しは、その俗っぽさからして、今し方彼が訪問者に向けた凝視の真剣さ、考え深さ、謎めいた視線、などとあまりに矛盾していた。
だが、この事がラスコーリニコフの憎悪をいっそうかきたてた。それで彼は、相手を愚弄する、かなり不用意な挑戦をどうしても抑えきれなかった。
・ 判事の狙い通りに、じらされたラスコーリニコフが平静を失って経験豊かな判事に立ち向かおうとしています。弁の立つ彼とは言え、判事の術中にはまって墓穴を掘る可能性もあります。
とるに足らない事柄から ― 2025-05-02
≪- А знаете что, - спросил он вдруг почти дерзко смотря на него и как бы ощущая от своей дерзости наслаждение, - ведь это существует, кажется, такое юридическое правило, такой приём юридический - для всех возможных следователей - сперва начать издалека, с пустячков, или даже с серьёзного, но только совсем постороннего,≫
<試訳> 「ところで何ですが」 と不意にラスコーリニコフはほとんど不敵とも言える目で判事を見ながら、そして自分の無遠慮さに喜びを覚えているかのような態度で尋ねた。「これは多分、司法の決まり切った方式、司法の応対のように思われますね、― あらゆる予審判事にとってですよ ― 最初は遠回しに、とるに足らない事柄から、あるいは重要でも、全くあたり障りのない事柄からだけ始めて、」
・ ラスコーリニコフが判事の話にしびれを切らします。官舎についての判事のつまらない話は、司法の取り調べの常套だと知っていると伝えたいのです。長い文の途中で、次に続きます。
<試訳> 「ところで何ですが」 と不意にラスコーリニコフはほとんど不敵とも言える目で判事を見ながら、そして自分の無遠慮さに喜びを覚えているかのような態度で尋ねた。「これは多分、司法の決まり切った方式、司法の応対のように思われますね、― あらゆる予審判事にとってですよ ― 最初は遠回しに、とるに足らない事柄から、あるいは重要でも、全くあたり障りのない事柄からだけ始めて、」
・ ラスコーリニコフが判事の話にしびれを切らします。官舎についての判事のつまらない話は、司法の取り調べの常套だと知っていると伝えたいのです。長い文の途中で、次に続きます。
警戒心を眠らせておいて ― 2025-05-03
≪чтобы, так сказать, ободрить или, лучше сказать, развлечь допрашиваемого, усыпить его осторожность и потом вдруг, неожиданнейшим образом огорошить его в самое темя каким-нибудь самым роковым и опасным вопросом; так ли? Об этом, кажется, во всех правилах и наставлениях до сих пор свято упоминается?≫
<試訳> 「何と言うか、容疑者を元気づける、あるいはもっと適切に言えば、気を紛らしてそいつの警戒心を眠らせておいて、それからやおら意表をついて、何か最も致命的で危険な質問を頭のてっぺんにくらわして驚かすんですよ、そうじゃありませんか? これについては、多分、あらゆる規則と訓令の中に今もって指示されているんじゃありませんか?」
・ ラスコーリニコフは自分に対して何も質問をしない判事に対して、それが尋問の手法だと分かっている事を伝えて、先手を取ろうとしています。彼は犯罪について大学で学んでいたので司法には詳しく、判事との議論を躊躇しません。できるだけ言葉少なくと決意して来たのに、抑えきれずに語り出します。
<試訳> 「何と言うか、容疑者を元気づける、あるいはもっと適切に言えば、気を紛らしてそいつの警戒心を眠らせておいて、それからやおら意表をついて、何か最も致命的で危険な質問を頭のてっぺんにくらわして驚かすんですよ、そうじゃありませんか? これについては、多分、あらゆる規則と訓令の中に今もって指示されているんじゃありませんか?」
・ ラスコーリニコフは自分に対して何も質問をしない判事に対して、それが尋問の手法だと分かっている事を伝えて、先手を取ろうとしています。彼は犯罪について大学で学んでいたので司法には詳しく、判事との議論を躊躇しません。できるだけ言葉少なくと決意して来たのに、抑えきれずに語り出します。
愉快で狡そうな表情 ― 2025-05-04
≪- Так, так... что ж, вы думаете, это я вас казенной-то квартирой того... а? - И, сказав это, Порфирий Петрович прищурился, подмигнул; что-то весёлое и хитрое пробежало по лицу его, морщинки на его лбу разглад
ись, глазки сузились, черты лица растянулись, и он вдруг залился нервным, продолжительным смехом, волнуясь и колыхаясь всем тёплом и прямо сморитя в глаза Раскольникову.≫
<試訳> 「なるほど、なるほど、… するとなんですね、私が官舎の事を言ったのも、そうだとお考えですかな…?」 そう言って、ポルフィーリィ判事は目を細めてちらりと目配せした。何か愉快で狡そうな表情がさっと顔に走り過ぎた。額の皺が消えて、目は細くなり、顔の輪郭が間のびしたかと思うと、突然全身を揺すって、ラスコーリニコフの目をまともに見ながら、ながながと神経的な笑い声を立て続けた。
・ ポルフィーリィ判事はラスコーリニコフの指摘を軽く受け流します。余裕のある態度で、何を考えているのか手の内を見せません。直情的なラスコーリニコフがこの判事を相手に冷静でいられそうにありません。
<試訳> 「なるほど、なるほど、… するとなんですね、私が官舎の事を言ったのも、そうだとお考えですかな…?」 そう言って、ポルフィーリィ判事は目を細めてちらりと目配せした。何か愉快で狡そうな表情がさっと顔に走り過ぎた。額の皺が消えて、目は細くなり、顔の輪郭が間のびしたかと思うと、突然全身を揺すって、ラスコーリニコフの目をまともに見ながら、ながながと神経的な笑い声を立て続けた。
・ ポルフィーリィ判事はラスコーリニコフの指摘を軽く受け流します。余裕のある態度で、何を考えているのか手の内を見せません。直情的なラスコーリニコフがこの判事を相手に冷静でいられそうにありません。
自分も作り笑いをしようとした ― 2025-05-05
Тот засмеялся было сам, несколько принудив себя; но когда Порфирий, увидя, что и он тоже смеётся, закатился уже таким смехом, что почти побагровел, то отвращение Раскольникова вдруг перешло всю осторожность: он престал смяться, нахмурился и долго и ненавистно смотрел на Порфирия, не спуская с него глаз, в всё время его длинного и как бы с намерением непрекращавшегося смеха.≫
<試訳> 当のラスコーリニコフは自分も作り笑いをしようとした。だが、ポルフィーリィが相手も笑おうとしているのを見て、真っ赤になってひどく笑い転げ出したので、ラスコーリニコフの憎悪の念が、突然、警戒心を越えてしまった。彼は笑うのをやめて顔をしかめた。そして、相手がわざとのように長いこと、まるで際限ないかのように笑っている間、しばらく視線を離そうとしなかった。
・ 判事の笑いがラスコーリニコフを圧倒します。入室するまで長く待たされた上に、相手にこのような真剣味のない態度をされて、彼は早くも冷静さを失いそうです。判事の意図を感じます。
<試訳> 当のラスコーリニコフは自分も作り笑いをしようとした。だが、ポルフィーリィが相手も笑おうとしているのを見て、真っ赤になってひどく笑い転げ出したので、ラスコーリニコフの憎悪の念が、突然、警戒心を越えてしまった。彼は笑うのをやめて顔をしかめた。そして、相手がわざとのように長いこと、まるで際限ないかのように笑っている間、しばらく視線を離そうとしなかった。
・ 判事の笑いがラスコーリニコフを圧倒します。入室するまで長く待たされた上に、相手にこのような真剣味のない態度をされて、彼は早くも冷静さを失いそうです。判事の意図を感じます。
これは非常に意味深長だった ― 2025-05-06
≪Неосторожность была, впрочем, явная с обеих сторн: выходило, что Порфирий Петрович как будто смеётся в глаза над своим гостем, принимающим этот смех с ненавистью, и очень мало конфузится от этого обстоятельства. Последнее было очень знаменательно для Раскольникова:≫
<試訳> しかし、不注意は明らかに双方にあった。ポルフィーリィ判事の方は客人に向かって嘲笑するかのようで、相手がその笑いを憎しみの念で受け止めているのを見ながら、その状況をほとんど気にしていない様子だった。これはラスコーリニコフにとって、大いに意味深い事だった。
・ 確信犯のラスコーリニコフと、犯罪捜査の経験豊かなポルフィーリィ予審判事の間で、笑いと視線で互いに探り合いが始まっています。「刑事コロンボ」のコロンボのキャラクタ-のアイデアが、このポルフィリ-だそうで、いかにもそうだと納得します。
<試訳> しかし、不注意は明らかに双方にあった。ポルフィーリィ判事の方は客人に向かって嘲笑するかのようで、相手がその笑いを憎しみの念で受け止めているのを見ながら、その状況をほとんど気にしていない様子だった。これはラスコーリニコフにとって、大いに意味深い事だった。
・ 確信犯のラスコーリニコフと、犯罪捜査の経験豊かなポルフィーリィ予審判事の間で、笑いと視線で互いに探り合いが始まっています。「刑事コロンボ」のコロンボのキャラクタ-のアイデアが、このポルフィリ-だそうで、いかにもそうだと納得します。
きっと罠にはまったのだ ― 2025-05-07
≪он понял, что, верно, Порфирий Петрович и давеча совсем не конфузился, а, напротив, сам он, Раскольников, попался, пожалуй, в капкан; что тут явно существует что-то, чего он не знает, какая-то цель; что, может, всё уже подготовлено и сейчас, сию минуту обнаружится и обрушится...
Он тотчас же пошёл прямо к делу, встал с места и взял фуражку.≫
<試訳> ラスコ―リニコフは、恐らくさっきポルフィーリィは全然当惑したわけではなく、反対に、自分自身がきっと罠にはまったのだと悟った。そこには彼の知らない何らかの目的が存在するのは明らかだった。もう何もかも準備されていて、今、これからすぐにも正体を表して不意に襲いかかるのかも知れない…。彼はすぐに用件に取り掛かろうと、席を立って帽子を手にした。
・ 奇妙に笑ったり見据えたりする判事の振舞いが、全て仕組まれたものではないかとラスコーリニコフは思い当たります。先手を取ろうと立ち上がるのですが…。
<試訳> ラスコ―リニコフは、恐らくさっきポルフィーリィは全然当惑したわけではなく、反対に、自分自身がきっと罠にはまったのだと悟った。そこには彼の知らない何らかの目的が存在するのは明らかだった。もう何もかも準備されていて、今、これからすぐにも正体を表して不意に襲いかかるのかも知れない…。彼はすぐに用件に取り掛かろうと、席を立って帽子を手にした。
・ 奇妙に笑ったり見据えたりする判事の振舞いが、全て仕組まれたものではないかとラスコーリニコフは思い当たります。先手を取ろうと立ち上がるのですが…。
必要なら何なりとお尋ね下さい ― 2025-05-08
≪- Порфирий Петрович, - начал он решительно, но с довольно сильною раздражителтностью, - вы вчера изъявили желание, чтоб я пришёл для каких-то допросов. (Он особенно упёр на слово: бопросов). Я пришёл, и если вам надо что, так спрашивайте, не то, позвольте уж мне удалиться.≫
<試訳> 「ポルフィーリィ判事」 と ラスコーリニコフは決然と、かなり激しい怒りを表して切り出した。「あなたは昨日、何らかの尋問のために僕に来ることを望まれていました。(彼は特に尋問という言葉を強調した) それで僕はやって来たのです。ですから必要なら何なりとお尋ね下さい。ないのなら、もう帰らせてもらいます」
・ 呼び出しておきながら、本題になかなか入らないので、ついにラスコーリニコが切り出します。その言葉に苛立ちがこもっています。これが判事の狙いなのではないでしょうか。
<試訳> 「ポルフィーリィ判事」 と ラスコーリニコフは決然と、かなり激しい怒りを表して切り出した。「あなたは昨日、何らかの尋問のために僕に来ることを望まれていました。(彼は特に尋問という言葉を強調した) それで僕はやって来たのです。ですから必要なら何なりとお尋ね下さい。ないのなら、もう帰らせてもらいます」
・ 呼び出しておきながら、本題になかなか入らないので、ついにラスコーリニコが切り出します。その言葉に苛立ちがこもっています。これが判事の狙いなのではないでしょうか。
葬儀に出なければならない ― 2025-05-09
≪Мне некогда, у меня дело... Мне надо быть на похронах того самого раздавленного лощадьми чиновника, про которого вы... тоже знаете... - прибавил он, тотчас же рассердившись за это прибавление, а потому тотчас же ещё более раздражившись, - мне это всё надоело-с, слышите ли, и давно уже...≫
<試訳> 「僕は時間がないんです、用事があって…。例の馬車に轢かれた官吏の葬儀に出なければならないんで、それについてはあなたも… ご存じでしょうが…」 、ラスコーリニコフはそう言い足して、なぜか同時に、こう付け加えた事でいっそう苛立ってしまった。「僕はこんな事は何もかもうんざりなんです、いいですか、もう大分前からです…」
・ 出頭して書類の提出するように求めていながら、それに対してきちんと対応せず、無駄話を続ける判事に、ラスコーリニコフは苛立ちを増して帰ろうとしています。マルメラードフの葬儀への参加も気掛かりな様子です。
<試訳> 「僕は時間がないんです、用事があって…。例の馬車に轢かれた官吏の葬儀に出なければならないんで、それについてはあなたも… ご存じでしょうが…」 、ラスコーリニコフはそう言い足して、なぜか同時に、こう付け加えた事でいっそう苛立ってしまった。「僕はこんな事は何もかもうんざりなんです、いいですか、もう大分前からです…」
・ 出頭して書類の提出するように求めていながら、それに対してきちんと対応せず、無駄話を続ける判事に、ラスコーリニコフは苛立ちを増して帰ろうとしています。マルメラードフの葬儀への参加も気掛かりな様子です。
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