恋じゃなかったのかも知れない2011-02-21

 ≪- Да почем же я знал, что я её вовсе не люблю! Хе-хе! Вот и оказалось, что нет. А ведь как она мне нравилась! Как она мне даже давеча нравилась, когда я речь чтиал. И знаешь ли, и теперь нравится ужасно, - а между тем, как легко от неё уехать. Ты думаешь, я фанфароню?
- Нет. Только это может быть не любовь была.
- Алёшка, - засмеялся Иван, - не пускайся в рассуждения о любви! Тебе неприлично. Давеча-то, ты выскочил, ай! ≫

<試訳> 「なぜかって言うと、僕が彼女を全然愛してやしない事が分ったからさ! へへっ! それがはっきりしたんだよ。あんなに好きだったのにな!演説をぶっていたあの時でさえ僕は大いに好きだった。今だって恐ろしく好きなんだって事がお前に分るかい。それなのに彼女といとも簡単に別れたもんだ。大袈裟に言ってると思うだろう」
「いいえ。ただ、それは恋じゃなかったのかも知れません」
「アリョーシカ」イワンは笑い出して言った「恋について議論をするのはやめとけ! お前には不謹慎だ。さっきあの時だってお前は出しゃばり過ぎたぞ、全く!」

・ 失った恋について揺れる心情を語るイワンに口を挟もうとしてアリョーシャが諫められます。ここでも彼は格好の聞き役となっています。こうして彼が多くの人の間を巡って学んで成長し、主人公として主体的に物語を動かすのは、作者が予定していて書かれなかった続編でだったのでしょう。

彼女は散々僕を苦しめた2011-02-22

 ≪А мучила-то она меня как! Воистину у надрыва сидел. Ох, она знала, что я её люблю! Любила меня, а не Дмитрия, - весело настаивал Иван. - Дмитрий только надрыв. Всё, что я давеча ей говорил, истинная вравда. Но только в том дело, самое главное, что ей нужно может быть лет пятнадцать аль двадцать, чтобы догодаться, что Дмитрия она вовсе не любит, а любит только меня, которого мучает.≫

<試訳> 「彼女は散々僕を苦しめたんだ!まったくひどい興奮状態に縛られていたもんさ。ああ、僕が愛している事を彼女は知ってるんだよ!僕を愛していたんだ、ドミートリィをじゃないのさ」イワンは快活に言い切った。「ドミートリィは激情からだけなんだ。先刻僕が彼女に言った事は全部うそ偽りない真実だ。だけど問題なのは、これが最も深刻なんだけど、彼女がドミートリィを全く愛していず、愛しているのは苦しめてきた僕をだと気づくには15年か20年かかるかも知れないという事さ」

・ イワンはカテリーナが自分を愛している事を確信しています。これまで読み進んで来たように、彼女は既にドミートリィと婚約しているのですが、ドミートリィは彼女から去りグルーシェンカを父と争っている状態です。この複雑な関係が同時に進行して交差し合います。アリョーシャはこの先どれ程この人々の葛藤に立ち会うことになるのかと同情してしまいます。

ヒステリーならしょうがない2011-02-23

 ≪Кстати, что она теперь? Что там было, когда я ушёл? Алёша рассказал ему об истерике, и о том, что она , кажется теперь в беспамятстве и в бреду.
- А не врёт Хохолакова?
- Кажется, нет.
- Надо справиться. От истерики впрочем никогда и никто не умирал. Да и пусть истерика, бог женщине послал истерику любя. Не пойду я туда вовсе.≫

<試訳> 「ところで彼女は今どうしてる。僕が去った時、あの場はどうなったんだ」 アリョーシャは彼女がヒステリーを起こした事、そして今は昏睡状態で熱に浮かされているだろうと話した。
「ホフラコワ夫人が嘘をついていないか」
「嘘じゃないようです」
「確かめないとな。だけどこれまでヒステリーで死んだ者は誰もいない。ヒステリーならしょうがないな、神がいとおしんで女性にヒステリーを恵んだものだから。あそこに僕は決して行かないよ」

・ イワンはカテリーナを案じてアリョーシャンにその後の様子を尋ねています。イワンもカテリーナも自分の想いに素直になれず、互いに愛していながら袂を分かちます。二人の今後の幸せを思い描く事ができません。アリョーシャがあの場で言った通り “ ドミートリィが二人の手を握らせて ” 祝福していれば・・・。いや、“ 恋について議論するのはやめましょう ”イワンに叱られます。

シャンペンを頼もうか2011-02-24

≪- Ты однако же давеча ей сказал, что она никогда тебя не любила.
- Это я нарочно. Алёшка, прикажу- ка я шампанского, выпьём за мою свободу. Нет, если бы ты знал, как я рад!
- Нет, брат, не будем лучше пить, - сказал вдруг Алёша, - к тому же мне как-то грустно.
- Да, тебе давно грустно, я это давно вижу.≫

<試訳> 「でも兄さんは、あの方があなたを愛した事なんてなかったって先刻あの方に言ったじゃありませんか」
「あれはわざと言ったのさ。 アリョーシカ、シャンペンを頼もうか、僕の自由を祝って飲もうじゃないか。 なあ、僕がどれ程嬉しいか分って欲しいものだよ!」
「いえ、兄さん、飲まない方がいいですよ」アリョーシャがすぐに言った。「それに僕は何だか気が塞いでるし」
「そうだな、ずっと沈んでいるな、前から分ってたよ」

・ 気持を整理して快活に話す兄とは逆にアリョーシャは憂鬱そうです。確かに、イワンは去っていきますが周囲の人達の葛藤は何も解決せず残されています。アリョーシャに託されたものの重みに心が沈むのも無理はありません。

ずっと前に立ち去るべきだった2011-02-25

 ≪- Так ты непременно завтра утром поедешь?
- Утром? Я не говорил, что утром... А впрочем может быть и утром. Веришь ли, я ведь здесь обедал сегодня единственно, чтобы не обедать со стариком, до того он мне стал противен. Я от него от одного давно бы уехал.≫

<試訳> 「じゃあ兄さんは是非とも明日の朝発つんですか」
「朝だって、僕は朝とは言ってないよ・・・。まあしかし朝にするかもな。なにしろ僕が今日ここで食事をしたのも、爺さんと一緒にしないためにだけなんだ。親父がつくづく厭になったのさ。あの親父から離れるためにだけでも、ずっと前に立ち去るべきだったよ」

・ フョードルへの嫌悪を語る言葉から、彼が去るのはカテリーナの件だけからではないと分ります。以前フョードルがアリョーシャに“ ドミートリィよりもイワンが怖い ”と言っていたのを思い起こします。他人同士なら関わらなければ済む事ですが、断ち切れぬ父親と息子の憎悪の感情には和解の難しさを感じてしまいます。

眼差しの行き着く所2011-02-26

 ≪Ты из-за чего всё три месяча глядел на меня в ожидании? Чтобы допросить меня: "како веруеши, али вовсе не веруеши", - вот ведь к чему сводились ваши трёхмесячные взгляды, Алексей Фёдрович, ведь так?
- Пожалуй что и так, - улыбнулся Алёша. - Ты ведь не смеёшься теперь надо мною, брат?
- Я-то смеюсь? Не захочу я огорчить моего братишку, который три месяца глядел на меня в таком ожидании.≫

<試訳> 「お前はどうして3ヶ月もの間、待ち望むような視線で僕を見つめていたんだい。問い質すためだろう、つまり“ どのように信仰しているのか、それとも全く信仰していないのか” と。これこそ3ヶ月間のお前の眼差しの行きつく所じゃないのか、そうだろうアレクセイさん」
「その通りかもしれません」アリョーシャは微笑んだ。「僕をからかってるんじゃないですか今、兄さん」
「からかうって、この僕がかい。3ヶ月もあんなに期待の眼で見つめていた僕の弟を傷つけたくはないよ、」

・ イワンがアリョーシャの眼差しにこだわってその意味を尋ねます。先日フョードルの屋敷で3人で信仰について話してはいますが、ドミートリィの乱入もあり十分に議論を尽くしてはいません。アリョーシャは兄の考えを確かめたい気持を抱き続けていたのでしょう。ゾシマ長老が見抜いたようにイワンもこの問題については解決しているわけではなく内心に悩みを抱えているようです。

神と不死はありやなしや2011-02-27

 ≪- Да, настоящим русские вопросы о том: есть ли бог и есть ли бессмертие, или, как вот ты говоришь, вопросы с другого конца, конечно первые вопросы и прежде всего, да так и надо, - проговорил Алёша, всё с тою же тихою и испытующею улыбкой вглядываясь в брата. ≫

<試訳> 「そうなんです、神と不死はありやなしやという問題、または兄さんの言われた対極の見地からの問題は、真のロシア人にとってもちろん何よりも第一の問題ですしそうでなければなりません」アリョーシャは兄を見つめながら終始あの静かで覗うような微笑みを浮かべつつ話した。

・ アリョーシャらしい言い方です。“ 対極の見地 ”というのはイワンが直前に言っている “ 神を信じない社会主義者も無政府主義社も所詮は同じ事で・・・反対側から問題を論じている ” を指しています。全編を貫くテーマがここでまた兄弟の間で取り上げられます。

お前をからかったのさ2011-02-28

 ≪- Ну говори же, с чего начинать, приказывай сам, - с бога? Существует ли бог, что ли?
- С чего хочешь, с того и начинай, хоть с "другого конца". Ведь ты вчера у отца провозгласил, что нет бога, - пытливо поглядел на брата Алёша.
- Я вчера за обедом у старика тебя этим нарочно дразнил и видел, как у тебя разгорались глазки.≫

<試訳> 「さあ、何から始めよう、神の事からか。神が存在するかどうか、どうだいお前が指示しなよ」
「お好きな事からでいいですよ、なんなら“ 対極 ”からだって構いません。だって兄さんは昨日父さんの所で神はいないと断言したんですから」アリョーシャは兄をじっと見つめて言った。
「昨日の親父の家の食事の席では、わざとその事でお前をからかったのさ、随分と眼を輝かせていたのが分ったよ」

・ アリョーシャと議論するのが嬉しそうなイワンです。彼も述べているように社会主義や無政府主義などの思想がロシアの若者に及びつつあった時代の背景が、神の存在についての議論にも影響を与えているようです。帝政下の現実の社会の状況が伝統的なロシア正教の信仰への問題意識を生みだした一因かも知れません。